The cruel game of heart

□22
2ページ/7ページ



そろそろ、か。
 

再び、剣を一閃させれば、青い花びらは霧散する。

そして、無数のそれらが宙に舞い、空気に溶けるようにして消えたあとには、赤い絨毯の上に光るいくつかの煌き。

その針は動くことはなく、静かに止まっていた。


「…………」
 

膝をついて、それらの一つを手に取る。



“時計”はこの世界になくてはならないもの。



これを軸に、新たな生が築かれる。

そこに、時計が止まる前の記憶が刻まれることは決してない。

わかっていても、求めてしまうのは、まだ、自分が人間だという証なのか。
 




ポケットから布を取り出して、そこに止まった時計を放り込む。

金属同士がぶつかる音だけが空間に響いた。


「ユリちゃーん。後で、渡すね」

「……あぁ」
 

振り返って、止まった時計に生を与える役割に縛られている役持ちに告げれば、思ったよりも、単純明快な了承が返ってきた。

持っていくなとか、渡せとか言われるかと思ったのに。

……でも、その隣のハートの騎士は俺のことを睨んでんな。

壊すわけじゃないのに。

それにしても、どういう心変わりだ?



時計屋、ユリウス=モンレー。

ルールを順守する彼が、こうも簡単に異物に時計の所持を許可するだなんて。

……期待してしまう。

彼は俺の知るユリウスではないユリウスなのに。

それも仕方ないか。



ルール上俺の役割を知らないのに、彼が俺を赦してくれるだなんて。
 


まぁ、ここでちょっかい出して、ややこしくなるのは避けたいか。


「好き勝手しおって」
 

不機嫌な声が空間を震わせる。

あー、だいぶお怒りかな?


「仕事なんですよー」
 

視線を走らせれば、剣呑に光るビバルディの瞳。

この軸の彼女も一度監獄入っちゃったんだっけ。

なら、なおさら嫌だったかもね。

乙女心は、いや、“人”の心の機微ってのは相変わらず難しい。


「お詫びとしては、何ですが……」
 

一度収めた剣をひと振りする。

再び、空間の歪みが生じ、その小穴から薄紅色の花びらが溢れ出る。

それは風に流れて、ダンスホールを巡るように舞う。

その様を感嘆するようなため息があちこちから聞こえた。


「桜吹雪、ってのも乙でしょ?お姫さんに似合いの赤い薔薇もいいけど、たまには、赤を引き立てる色もいいよね」
 

そう尋ねれば、少しだけ俺を睨みつける眼光が和らいだ。

やっぱり、桜好きなんだ。

よかった。



一時的にでも、“気をそらす”ことができて。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ