The cruel game of heart
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豪華絢爛。
いつもは赤がその存在を主張する空間は他の彩色が存在していた。
鮮やかな桃色。
落ち着いた緑色。
淡い青色。
控えめな橙色。
畏まった黒。
普段とは異なり、正装に身を包んだ人々がその会場に入り乱れる。
女性はフリルやレースをあしらったドレスを。
男性はシンプルなものから、個性的なスーツを。
その中でも存在を一際主張するのは、この舞踏会の主催者。
「皆さん、ご静粛に」
涼やかな男の声が、空間を震わせた。
それは主催側であるハートの城の宰相である男のもの。
普段の電波っぷりを知る城の客人、アリスはその変わりように軽く目を見開いていた。
一国の宰相にふさわしい落ち着き、品さえ感じさせるその佇まいは、彼があまりアリスに見せることはなく、彼女に新鮮さを与える。
「女王陛下より開会のお言葉です」
右手を左胸にあて、軽く頭を下げた彼に視線をやることもなく、ハートの女王、ビバルディが階段から、群衆を見下ろす。
「……よく集まったな」
女王たる威厳さを感じさせる彼女の様子に、アリスは不覚にもときめいた。
女性でありながら、凛とした姿は彼女にとっては憧れるもの。
それが首切り女王と揶揄される性情を兼ね備えていたとしても。
「ふむ。招かざる客もいるようだが……」
多様な色彩で彩られた群衆の中に、印象的な黒をみつけたビバルディは僅かに唇を緩めた。
対するその黒も、彼女と視線を交わすと柔らかく微笑を浮かべる。
しかし、それはほんの一瞬の出来事で、誰も気に止めることはない。
「今宵は宴じゃ。すべてを忘れて楽しむがよい」
つい、と掲げられたビバルディの左手。
そこに握られているのは赤い赤い紅玉の、ハートの杖。
すると、先程まで青々しかった空が夜の帳に覆われる。
明かりを失い、暗くなった空間。
「わらわは夕暮れどきを好むが、……舞踏会は夜が似合いであろうな」
視覚を遮られた故にか、よりビバルディの声は荘厳さを感じさせる。
光をなくした空間で、彼女は胸の前に杖を持ってきて、その先の紅玉に右手を近づける。すると、その紅は光を帯びた。
しかし、その周りを仄かに照らす明るさだけでは、この空間すべてを支配できるはずもない。
「――灯りを」
再び掲げられた杖。
すると、この空間に存在する光灯や蝋燭の明かりが連鎖的に点されていく。
幻想的なその光景に目を奪われた者は少なくはないだろう。
「今宵限りかもしれぬその生。存分に謳歌するがよい」
そして、終始凛とした女王の姿に見蕩れた者も。
「わらわからは以上じゃ」
あまりにも短い、女王からの言葉に、彼女の伴侶たるハートのキングは遠ざかる背中を引き止めようにも、それに従うはずもなく。
宰相である、ペーターは制止することさえせず、諦観していた。