The cruel game of heart

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「よ!大丈夫そうだな」

「えぇ」
 

ボリスとの一件から、10時間帯が経ち、キラは通常運転でカフェを営んでいた。

その涼やかな、漆黒の瞳に映るのは原色の黄色と穏やかな、しかし、何かを孕んだ眼差し。

理由もなく休業していたため、客からの不満の声に対応しなければと考えていたキラとゴーランドであったが、それも杞憂に終わった。

客からは不満ではなく、心配の声が上がるばかりで、逆に、キラは困惑せざるをえなかった。

それを、キラの人徳だと称す上司にも、黒い異物は困惑するだけで、受け答えることはしなかった。
 




現在、ボリスの姿を見たものは遊園地にはおらず、キラが来る前と同様にあちこちをふらふらとしているという噂ばかりが風に流れてくる。

ゴーランドもあえて、ボリスの名を口にすることはなく、仕事熱心な部下の姿を眺めていた。
 


“役持ち”、

“役無し”、

“余所者”

と異なる


“異物”。



その存在もまた、他とは異なるルールに縛られていることをゴーランドはボリスの口から聞き出していた。
 




――俺は、何ものも拒絶できない。

殺意も、

悪意も、

愛情も。

それが“ルール”だから、俺は従う。

……だから、俺を壊したきゃ壊せばいい。

愛したければ愛せばいい。

殺したければ殺せばいい。

ただ、俺はそれら全てに答えることはできない。

お前も、その中の一人だから。
 




この言葉の真意はそのまま受け取るとするならば、キラが縛られている“ルール”というものは“受容の義務”だと考えられる。

どこの聖人だと笑い飛ばせるものであれば、遊園地の領主であるゴーランドも悩むことはなかったのだろう。

しかし、飄々とした態度で、食えない性格をしたキラのその言葉は酷く重く感じられる。

すなわち、真実であるということ。

他の役持ちのように敵対関係にあれば、もしくは干渉することのない存在であれば、ゴーランドも無視できたかもしれないが、キラは彼の部下であり、友人となった現在、“異物”であろうと目の前で仕事に励む存在を切り捨てることはできなかった。

“余所者”に劣らぬその影響力にゴーランドは苦笑をその唇に滲ませた。

 



この視界に黒が入っていなければ不安になるなんて、まるで麻薬みてぇな存在だな。
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