The cruel game of heart
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アイリに連れ、メイドに彼女の様子見を頼んだエリオットは予定通り、そのまま上司の部屋へと向かった。
上質な素材でできているドアを叩けば、返ってきた短い答え。
「あぁ。入れ」
誰が訪ねてくるのか把握していた上司の言葉に従い、エリオットは中に入った。
彼の瞳に映ったのは書類に何かを記入していた上司の姿。
動かしていた手を止め、今、マフィアのボスを務める上司の瞳はエリオットを捉えていた。
「悪ぃ、仕事中だったか?」
「いや。それよりも、お嬢さんはどうだった?」
「やっぱ、詳しいことは一切話さねぇ。ただ異物に嫌われたってことだけしか教えてくれなかった。今は役無しがついてる」
「そうか……」
アイリについての報告にこの帽子屋領の領主であるブラッドは軽くため息をついた。
いつものように林などで拾った時計をキラに届けにいったアイリを部下に監視させていた。
しかし、今回は普段とは違い、アイリがキラの自室に呼ばれたため、二人の間でどのようなやりとりが行われたのかは当人達以外はわからない。
ただ彼らが把握しているのは、
アイリがキラに嫌われてしまったことを気にしているということと、
そう取られるような発言または行為をしたキラは通常通り遊園地の喫茶店で働いているということ。
マフィアである非情な職についている彼らが少女のことを気にするのは余所者故であり、そこに同情というものは存在しなかった。
アイリはもう一人の余所者であるアリスとの比較対象であり、マフィアのボスであるブラッドの暇つぶしであり、それに部下たちも従っているだけであった。
もうひとつの有用価値があったとすれば、帽子屋領の役持ちが嫌悪するキラの弱みになりうるという可能性低いものであったが、それも今回の件でさらに有用性は限定されることになった。
それでも彼女をこの屋敷に置いているのは、ブラッドを楽しませる可能性があるということだけだった。
そのためだけにこの領土で生かされている。
領主を楽しませるためだけに生かされている。まるで、鳥かごのなかにいるような存在。
「それで、異物の時計集めに関する情報は他に集まってないのか?」
「前に報告したのと同じで、集めて、傷つけて、残像に回収させてるってことぐらいしか分かってねぇ。ブラッドが見たっていう、時計屋と処刑人との戦闘はあれ以来行われてないらしい。今でも、あいつは時計屋との交流を続けているみてぇだがな」
「目的は不明か……。それにしても熱心なことだ。仕事がないときは時計集めに専念しているとはな。可能性が高いものとしては、時計を集めることで元の世界に帰ることのできる手がかりがあるということか」
「だろうな。……監視は今まで通りでいいんだな」
先ほどのまでのアイリを慰めていたエリオットの言葉にブラッドはほくそ笑んだ。
アイリとエリオットの仲は決して悪くはない。
むしろ人参料理愛好家であるエリオットにとって自分の嗜好を理解してくれる存在はかなり貴重であり、お互いに人参料理について意見交換をするほど。
しかし、彼にとっての唯一はただ一人だけ。
ブラッドが命令すれば、エリオットはそれに従う。
だからこそ。
「あぁ、お前の判断に任せる。エリオット」
「わかった。殺しても構わないんだよな」
「もちろんだ」
例え、親しい者であったとしても、ブラッドの命令であれば背くことはない。
そもそもアイリはブラッドの退屈を紛らわせる存在でしかない。
その範囲内でエリオットは彼女と交流しているだけ。
だから、いつでもその右手は引き金をひける。
ただ、もしそれがアリスが相手だったとしたら、躊躇ったかもしれない。
同じ領土で生活しているとしても、初めから玩具だと言われていれば、その対象物をそれ相応の見方しかできないのだから。