The cruel game of heart
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「……ふっ、ぇ」
「……アイリ」
帽子屋屋敷の庭の一角。
現在は空に浮かぶ眩い光源が地上を照らす時間帯。
雨の降らないこの世界で、少女のスカートを濡らすものがあった。
透明の雫が作られては、白い布にシミを作っていく。
その傍には大柄の男。
彼の職業には似合わぬ沈んだ面持ちで、少女に寄り添っていた。
普段は空に向かって伸びているはずのうさぎ耳も今回ばかりは垂れている。
「私、何かしちゃったのかな……」
「そんなことないと思うぜ!アイリはいいやつじゃねぇか」
「でも……。なら、なんでキラはあんなこと言ったんだろ」
数時間帯前に帽子屋屋敷に滞在する余所者であるアイリはキラに会いに遊園地へと向かった。
もちろん、一人で。
その時に遊園地に滞在する異物が彼女に何かを言ったらしい。
その事実のみを知らされ、その詳細を聞いていないうさぎ耳の男、エリオットは俯く金色の頭を撫で回す。
「たまたまあいつの虫の居所が悪かっただけだろ。あんまり気に病むなよ、アイリ」
「……うん」
僅かに上下に動いた頭を認め、男は小柄な少女の体を抱き上げた。
軽々と抱えると、その足は真っ直ぐに帽子屋屋敷に向かう。
向き合うように抱き上げられたアイリは恰幅のいい肩に顔を埋めたが、それを気にすることなく、エリオットは歩を進める。
帽子屋屋敷の彼女の部屋へと。
そして、その後、上司の部屋へ向かうために。
だからこそ、彼は気づくことがなかった。
少女の瞳が赤く煌めいていたことに。
少女の瞳が化け物じみていたことに。
だけど、それもほんの一瞬。
特に彼女の様子も変わることはなく、上司のお気に入りということと今までの交流で幾分か気を許していたエリオットの普段は鋭く冴え渡る勘が働くことはなかった。