The cruel game of heart
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「違うよ」
幼い少女の一言は、彼の鼓膜だけでなく、指も震わせた。
それはほんの僅かなもの。
しかし、空色の瞳はしかと捉えていた。
「なら、俺は弱い?」
「違うよ」
先ほどと同じ答えをアイリは紡ぐ。
「私にないものを、どの世界の人にもないものを持ってるから、キラは強いんだよ」
そして、先ほどとは異なる、核心に迫る答えをアイリは紡いだ。
キラは遊園地に滞在する、余所者でも、この世界の住人でもない“異物”という存在。
アイリと同じ世界から来たというそれは確かに、この世界の住人とは異なる能力を持っていることはエース自身もその身をもって体感した。
しかし、アイリが言う、“異物以外が持っていないもの”にその能力は該当しないらしい。
「だから、私はキラに愛されたい。キラと一緒にこの世界にいたい」
「…………」
目の前にいるエースをその瞳に映しながら、どこか遠くを見つめるアイリ。
大人びたその表情はむき出しの胸板によって隠される。
直に伝わる温もり。
それを感じながら、アイリは瞑目する。
脳裏に浮かぶのは、黒が印象的な異物。強く、賢く、凛として……。
「……?」
そこでふと、アイリの鼓膜を震わせたものがあった。
改めて耳を清ませば、それは確かに音を刻む。
この世界ではあまり見かけないもの。
しかし、その音は淡々と刻む。
――時間を。
「時計……?」
「あぁ、そうだよ」
アイリの頭を片手で掴み、胸元に押し付けるように抱きしめる青年。
痛みに顔を僅かにゆがめながらも、アイリは確かに聞いた。
エースの胸元の中心よりやや左側、少女で言う心臓が鼓動する位置からそれは音を刻んでいた。
直接伝わる温もりからは想像できない、無機質な、淡々とした、機械的なその鼓動に、アイリは目を見開く。
「俺達は、君達のいう心臓の代わりに時計をもつんだ」
アンドロイド。
しかし、その考えはすぐに消える。
今、感じている温もり。
そして、遊園地でキラとエースが対峙したとき、確かにチェシャ猫は血を流し、その金色の瞳が一瞬赤く染まったという事実。
機械ではない。
感情はある。
それも、人間的な弱さも。
ただ、心臓が余所者とは違うというだけ。
その考えに辿りついた時点で、アイリは尋ねられた。
「気持ち悪くないか?自分とは違う存在が」
見上げれば涼やかな赤い瞳があった。
彼の手が少女の胸元に伸ばされる。
服越しに、胸に触れられたというのに微動だにせず、その手の主を傍観する少女。
「……ねぇ、アイリ。君って、女の子だよね」
「え?」