The cruel game of heart

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「…………エース」

「どうしたんだ?アイリ」

「寒い」

「なら、もっと俺の方に寄りなよ」

「……やだ」

「えー、じゃあ俺の方が寄ればいいな」

「やだ」

「あははー傷つくなぁ」

「全然傷ついてないよ」
 

夜の帳が空を覆う時間帯。


どこの領土内とも知れない森の中、一つのテントが建っていた。

中から漏れる光に照らされて出来た影は二つ。

一つは小柄で、テントの端に縮こまり、もう一つは大柄で、小柄な方に寄り添おうとしていた。

しかし、小柄な方はもう一人が近づけば遠ざかり、また近づいてくれば遠ざかり、とうとう隅に追いやられていたのだった。


「一緒に暖を取ろうぜ」

「何で脱ぐの?」

「より肌を密着させれば暖かくなるんだ!」

「……キラがいい」

「…………キラは今いないじゃないか」
 

黒い軍服を脱ぎだした大柄の影、ハートの国の城の騎士、エースは小柄な少女、アイリの拒絶に少しばかりそのポーカーフェイスを歪ませたが、アイリは気づいていないようだった。

軍服の下から現れた肉体はひきしまっていて、また、ランプに照らされた姿は艶やかで、年頃の女性なら頬を赤く染めてもおかしくはないのだが、如何せんアイリは幼く、色には疎かった。

嫌そうにエースを見上げる少女に、その視線を受ける青年は彼女の滞在地の領主を思い浮かべ、その意外さに内心驚いていた。

アイリが滞在しているのは帽子屋屋敷。

そして、その領主は帽子屋、ブラッド=デュプレ。

マフィアのボスでもある彼が滞在させているのだから、色についての知識も植えつけられているのだろうという前提でテントに連れ込んだのだが、エースの予想は外れ、少女は知識も身体も穢されていなかった。


「アイリは何で、キラが好きなんだ?」
 

軽々と小柄な体躯を抱き上げ、一つの毛布に包まれて寝ようとした青年に、視線だけで抵抗していたアイリは大人しく、その太い腕に収まっている。


「かっこいいから」

「えー、どこがー?」
 

向かい合い、抱き合った状態で、剣だこのできている指が、もう一人の余所者とは異なりくせのある金色の髪を梳く。

彼は間延びした声で尋ねてはいるものの、アイリの水色の瞳を射る、赤い眼差しは鋭かった。

そのことに気づいていながらも、余所者である少女は至近距離にあるその赤い瞳を真っ直ぐに見返す。


「強いところ」

「俺も強いよ」
 

力強い彼の言葉に、ゆっくり横に振られたアイリの頭。

重力に従い彼女の目元を金色が陰らせた。

それを傷もたこもない細い指がはらおうとしたが、それよりも太い指が除けたほうが速かった。


あらわになった空色の瞳。



静かなそれに、赤い瞳が見開かれた。
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