The cruel game of heart
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「…………喧嘩でもしたのか?」
「いえ、通常通りです」
「……そっか」
居候であり、部下でもある異物のその言葉に、遊園地のオーナーである壮年の男は同情の色をその碧の瞳に滲ませ、もう一人の居候である役持ちが生気を失っているのを思い出した。
「どうぞ」
「お、サンキュ」
テーブルの上に出されたのは遊園地の一角にある、落ち着いた印象が評判のカフェ一押しと言われているオリジナルブレンドコーヒー。
シンプルな白い陶器と対照的な暗い色の液体からは芳しい香りが漂う。
それぞれの客に合わせてブレンドされるものであり、紅茶をビールのようにぐい飲みする遊園地のオーナー、ゴーランドも味わって愛飲するようになるほどであった。
コーヒー故に、一部の役持ちからは非難を受けているという噂もあるが、飄々としたカフェの店主の手腕のおかげで銃撃戦が起きないのだろうと安易に予測できるのは、異物がこの国に来て随分経ち、ゴーランド達と親しくなってきた故のものだろう。
「……あのよぉ」
「申し訳ございません」
「俺、まだ何も言って」
「申し訳ございません」
「……ボリスと仲直りしてく」
「仕事に戻ります」
「…………」
黄色い衣装に包まれた右腕は空を裂いただけだった。
上司であるはずのゴーランドの言葉を最後まで聞くことなく、耳を傾けることなく、視線を合わせることなく立ち去った居候、キラの後姿に遊園地のオーナーは溜め息をついた。
それと同時に、いまだに生気なく自室にこもっている居候に対して憐憫を覚えた。
「いや、まぁ、自業自得なんだけどな」
その呟きは店に流れるクラシックにかき消されるほどに小さなものであった。
そして、彼の表情は息子の失恋に落ち込む父のようであったと、カフェに来ていた客達が囁き合っていた。
話は十数時間帯前に遡る。
居候二人と買出しに時計屋領に来て、いち早く会計を済ませていたゴーランドは時計屋領の住人達の噂話で、帽子屋ファミリーによってキラの行くはずだった店が崩壊していたことを知った。
この国に馴染んだとは言っても土地勘のない異物のことを心配し、部下を使って捜索し始める。
そして、部下が困り顔でゴーランドに伝えたことは、彼自身も困らずにはいられない情報であった。
ボリスがキラの寝込みを襲った。
しかも、野外。
領主として、保護者として、ゴーランドは頭を抱えざるをえなかった。
猫だからしょうがない。
ではない。
致すことはなかったようだが、その一件以来、加害者である猫は生気を失ったように自室に引きこもっている。
まるで、今までとは別人のような変わり様に、遊園地の従業員達も言葉を失っていたのは記憶にも新しく、今なお、継続中であった。