The cruel game of heart
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パンッ。
鳴り響いたのは銃声。
倒れたのは顔がおぼろげな男だった。
その手には鈍く光る拳銃。
「ボス〜。これで終わりです〜」
「そうか」
いまだ煙が漂う銃の持ち主は帽子屋ファミリーの使用人だった。
それを、ボスと呼ばれた帽子屋、ブラッド=デュプレは短く返す。
あたりに部下であり、役持ちである三人がいないことに気づいたが、特に気にする風もなく、彼の後ろで雰囲気の変わったキラに視線を向けた。
キラの黒い瞳は地面に倒れた男を映す。
それは身動き一つとる気配はなく、死を見慣れた者には絶命していることがわかった。
それを理解しているはずのキラはその男に近づく。
キラの行動を不審に思った帽子屋屋敷の使用人達は各々の得物を構えるが、それを制するようにブラッドを右手を上げた。
それに従い、キラに向けられる筈だった銃火器類はしまわれた。
「……」
ブラッドの口角がゆっくり上がる。
ある筋からのキラに関する情報が彼の脳裏に浮かんでいた。
それに深く関わるのはこの世界の住人にとって欠かせない――時計。
その真偽について興味を持っていたブラッドであったが、ちょうどいいところに、絶命した役無し、いや、新鮮な実験体ができた。その実験体に誘われるように近づく黒い異物。
キラの白い左手がそっと男の胸に当てられる。
右手には何本もの鋭い針。
「……!?」
その場にいたもの全員が息を呑んだ。
キラが触れている男の姿がぶれた。
まるで壊れたビデオテープのように。
一度だけだったそれは、二度、三度と連続して起き始める。
それに同調するように、どこからともなく黒い影が現れた。
――残像だ。
それらはキラに近づき、手を伸ばそうとするが、銀色の煌きがそれを制した。
キラによって放たれた針は、残像に触れることはない。
残像とキラを隔てるように、石畳の地面を穿つだけ。
しかし、そこに不可視の壁が築かれたかのように残像はそれ以上キラと距離を縮めることはできなかった。
黒い影が蠢く間にも、絶命した男の姿は先ほど以上にぶれていく。
途中、男の胸に掌ほどの大きさの丸い円盤状のナニかが浮いていた。
それは男の姿が形状を保てなくなるのに反比例して、その姿を徐々に明確なものにしていく。
ローマ数字が白い円の縁を彩り、その中心には動かない2本の針。
それらを包み込むように透明硝子のケースと金色の裏蓋が煌いた。
――時計。
この国の住人にとっては、その存在よりも重要視されるもの。
それが、キラの両手に掬われる。
完全に両手に包み込まれたのを最期に、男の姿は元からそこになかったかのように掻き消えた。
表情を変えることなく、その時計を懐にしまう。
そして、未だ不可視の壁にはりつく残像を一瞥した。
冷たく光る黒い瞳に、思わずブラッドは息を呑んだ。
普段から本心を悟らせないその黒い双眸が明らかな感情を示した。
――純粋な殺意。
だが、それはほんの一瞬で、すぐに感情が読めなくなる。