The cruel game of heart
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「あぁ、イライラする! どうして猫は居らぬのじゃ!」
遊園地の一角に設けられたカフェテリア。
そのとある席でヒステリックな声を上げているのはビバルディに、同席していたアリスはまあまあと宥める。
「その内帰ってくるわよ。帰ってくるまで私とアトラクション回るのは嫌?」
「そんなのことはないが、……。よし、仕事はキングに押し付けたことだし、暫く生き抜きでもするか」
「押し付けたのか……」
ハハハと乾いた笑いを漏らすのはビバルディと向かい合うようにソファにも垂れている壮年男性。
赤みがかった茶色の髪は後ろで三つ編みに、無精髭を生やし、眼鏡をかけている。
そこまでは何とかまぁ、ぎりぎり常識の範囲内。
彼が纏うのは目に痛い原色の黄色の衣装で、腰に大きめの木馬の飾りがついていて、大変奇抜な格好をしている。
そんな彼はここの遊園地のオーナーであり、役持ち、しかも領主であり、侯爵だというが、大変気さくだ。
また、命が軽く扱われ、アリスが元いた世界とは大きく常識がずれているこの世界において、アリスが認める常識ある大人だ。
ただ、少々短気で、音楽センスに難有りだが。
「当たり前じゃ。あの男には仕事をする能しかない。それを有効活用してやっているのだから、有難く思っておるはずじゃ」
ジャイアニズムな発言をするビバルディにアリスと侯爵――ゴーランドは苦笑をもらす。
「まわるってなら、俺が案内するが……」
「いらぬ。妾とアリスとの貴重な時間を邪魔するでない」
「ありがとう、ゴーランド。また今度お願いね」
「ああ。なら、新しくできたジェットコースターはお勧めだぜ」
「へぇ、どんなの?」
「つまらなかったら、首をはねるぞ」
「おっかねぇなぁ」
若干顔を引きつらせたゴーランドは窓から見える、以前は見受けられなかった大きな屋敷のようなものを指差した。
「あれだよ。ジェットコースターなんだが、スピードと行き先を自由に決められる。あの屋敷の中はジャングルみたいになっててな。館内は熱帯雨林だけじゃなくて、湖や浜辺、まぁ、水と植物以外作り物だが、結構楽しめるから行って来いよ。人気あるんだぜ」
どこか誇らしげに言う彼にアリスは珍しいと零した。
いつもなら、コーヒーカップジェットコースターなど斬新というよりも、危険度のある高速系やダイナミックなものを披露するのだが、今回は違ったようだ。
「いや、たまには変わったモンがねぇと客も飽きるだろうと思ってな」
「飽きる前に、身の危険を感じるけどね」
今度はアリスが顔を引きつらせ、残っていたジュースを飲み干した。
「よし、では行くか」
「うん。じゃぁね、ゴーランド」
「おう。楽しんできな」
席を立ち、店を出る前にぱたぱたと手を振るアリスにひらりとゴーランドは手を振り返す。
女王は二人のその様子を見届けてから、カランとドアを開けて、身を翻した。