The cruel game of heart
□2
2ページ/9ページ
「どうしたの?」
「怖くて動けない?」
「それなら仕事が早く済みそうだね。兄弟」
「うん。そのまま動かないでね。特別に痛くしてあげないから」
白ウサギが突然アリス、と叫んで逃げた後、不機嫌な長髪の男に恐怖心を抱きながら簡潔な説明を受けたアイリは、早々、この世界に苦手意識を持った。
先程白ウサギが叫んだアリスという、アイリと同じ余所者に部類される少女に会いに、ハートの城に向かっていた道中、再びこの世界に対し苦手意識を持たざるを得ない状況に巻き込まれた。
現在、二人の少年を前にアイリは先程とは別の恐怖で腰が抜けている。
顔が酷似している二人の少年は色違いの、少なくとも元居た世界では見たことのないタイプの服を着ていて、服と同じ柄の帽子を被っている。
ここまではまだ個人の趣味だということで、アイリの中に顕在する常識に罷り通る。
問題なのは彼らの手にあるソレだった。
1mを優に超える大きな斧。
きらりと太陽に反射する光沢の良さや、緊迫した雰囲気からその二振りの得物が作り物ではないことが、あまりそういった武具に詳しくないアイリにでもわかる。
あたりに視線をやっても、町の人々は見て見ぬ振りをする。
それが当然だ。
誰だって保身すら出来ない状況で、建前だけの正義感を振るいたくはない。
いくらあの時計塔の番人に教えられたように物騒な世界ではあっても、利己主義な人間の本性だけは変わらないことに思わずアイリは苦笑した。
「じゃあね」
非情でありながら、非常識ではないと、当然のように斧は振り下ろされた。
ここで、終わるのか。
少なくとも元居た世界で死にたくはなかったから、願いは叶ったと言っても良い。
理想郷で生を終える。
何と、魅力的で、理想的な終焉だろう。
アイリの脳裏には恐怖心など当に消え去って、この世界で得られる死への歓喜に満ちていた。