キセキの始まり
□6Q
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「あ、粟花?試合、どうだった?」
【勝ったよー。男子は?】
「何とか、僅差でね。男子、だいぶ二連戦がこたえたみたいで、近くのお店で祝勝会がてらご飯食べようと思うんだけど、女子も行かない?」
【どこの店ー?】
「確か、鉄板キッチンっていうお好み焼き屋さん」
【あー、わかんねぇや。じゃぁ、男子の方の会場に行くから、ちょっと待ってて】
「わかった。雨降ってるから、濡れないようにねー」
【はーい】
「どうだったんですか?女子の方」
粟花との通話を終えたリコにそわそわしていた男子一年トリオを代表して、福田が声をかけた。
「勝ったそうよ。今から男子と合流して、食べに行くって」
「よっしゃ!」
「男女で決勝リーグ進出!!」
「この調子でIH行けるんじゃね?」
女子の吉報を聞き、福田達もはしゃぎだす。
それを見ながら、リコはそっと笑った。
男子は去年の大敗を乗り越え、女子は去年出すことのできなかった本来の力を発揮することができたで、この二つの勝利は去年から彼らを見守ってきた彼女にとってこの上なく喜ばしいものだった。
「もう少しで女子も来るだろうから、私は外で待っとくわね。そう二年にも伝えといて」
「はーい」
「あ、リコー!」
雨音に混じって聞こえたのはいつも元気な粟花のもの。
だけど、それはどこか違和感があった。
「粟花?どうしたの」
赤くなった鼻。
今は梅雨時で、少し肌寒い程度。
鼻が赤くなるほど寒くはない。
としたら・・・、泣いたせいで赤い?
でも、そんな空気じゃなかった。
「あれ?銀さんは?」
そう、彼女が一人だけいなかった。
「先に帰った」
そう簡潔に言った撫子は何処か落ち込んでいるようにも見える。
まるで、負けたかのように。
でも、さっきは勝ったって。
そんな私の表情を見て、萩は言った。
「ちゃんと、勝ったよ。心配しないで」
寂しげに笑う萩に私は嫌な予感がした。
「もしかして、銀さんが「怪我とかじゃないから」・・・」
そう言ったのは無表情のカズで、その隣の常磐さんも寂しげな表情を浮かべながら頷いた。
「レイさんは、・・・彼氏がいたんです」
「そんなに嫌なの!?」
そう通夜のような表情で呟いたいたかと思うと、濁流の如く常磐さんは泣いた。
「僕というものがありながら・・・!」
「え?あれ?皆もそのせい?じゃないわよね?」
あれ?
さっきのシリアスな空気は残ってるのに、常磐さんのせいでギャグに突入しそうになってるんだけど。
「後半は聖マリアが無得点で、誠凛がダブルスコア。結果は52-116。第3Qで立て続けにエースが敗れて、第4Qで相手チームは完全に戦意喪失」
すごい・・・。
そう言いたかったけど、言えなかった。まだ泣いてる常磐さんを除いた女バスの表情が暗すぎる。
なんで?
「銀さんです」
「・・・え?」
「彼女が後半出場し、彼女一人で91得点しました」
「・・・・・・・・・」
待って・・・。
相手を無得点でおさえた上に、そんな得点を・・・・・・?
それに、得点力が三人もいるのに、粟花達、他のメンバーが一点も入れられてないなんて。
「銀の作戦だったんだ」
作戦・・・。