キセキの始まり
□5Q
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「ちょっとパン。買ってきて」
「わかりました。どこの店のパンでしょう」
「いや、購買のパンだから!」
「あー、だから昨日、僕達に昼飯もってくるなって言ってたんですね」
昼休み。
男子バスケ部監督リコから呼び出しのメールを受けた一年男女バスケ部計7人は現在2年校舎にいた。
ちなみに、レイはケータイを持っていないということで、一年バスケ部の誰かが口伝えということになったが、よく黒子がレイと一緒に行動し、火神とも同じクラスということで基本問題はないようだ。
レイとは違うクラスである一年男子の降旗、河原、福田は初めこそはレイの纏う独特の雰囲気に気圧されていたが、部活でのシュート練なので同じ時間を過ごすことにより、徐々に慣れてきたのだった。
「コホン。・・・えーと、実は誠凛高校の売店では毎月27日だけ、数量限定で特別なパンが売られるんだ。それを食べれば恋愛でも部活でも必勝を約束される幻のパン。イベリコ豚カツサンドパン三大珍味のせ!!2000円」
「高っけぇ!!・・・し、やりすぎて逆に品がねぇ」
「火神。高くねぇよ。これだけの食材使ってんだ。お買い得だぜ」
「いや、購買にあるべきパンの値段じゃねぇって!」
「いや、学生向けにかなり安くなってる」
リコの説明に火神が極当然のツッコミを、そのツッコミに対し何故かレイが冷静な分析をしていた。
そんな真っ当だが、どこか論点のずれた会話を打ち切ったのは主将である粟花と日向だった。
「女子は新入部員もゲットできたし」
「男子は海常にも勝ったし」
「「練習も好調。ついでに幻のパンもゲットして、弾みをつけるぞ!ってワケだ!」」
息ぴったりに二人が言うのは事実だった。男子が海常に勝ったのはもちろん、レイの入部により士気、特に男子の士気が上がり、今まで以上に好調に練習ができたのだった。
「けど、狙ってるのは私達だけじゃないんだよね〜」
「いつもよりちょっとだけ混むんです」
「パン買ってくるだけだろ?チョロいじゃんですよ」
にっこり笑う萩と桔梗に火神は素直に疑問を口にしたが、彼女達が答えることはなく、代わりに日向が火神に封筒を差し出した。
「ほい!」
「?」
「金はもちろん2年生が出させてもらう」
「ついでにみんなのお昼も買ってきてね」
「ただし、失敗したら・・・」
撫子、葛、粟花がリレー式で説明する中、やはり最後は男子バスケ部主将だった。
「釣りはいらねーよ。今後、筋トレとフットワークが3倍になるだけだ」
腹黒い顔。
クラッチタイムに突入した日向に男子一年は頬をひきつらせた。
「今の3倍なら余裕でいけますが」
「僕、自主トレもいれて、3倍くらいです」
「そこ、女子二人黙って!お願いだから!!」
日向の言葉に正直なコメントをしたレイと芒。
男子とは異なるリアクションに、改めて男子と女子のメニューの差、つまりはリコが女子をどれほど贔屓している(男子には腹いせで無謀なメニューをしていて、女子には身体を気遣い必要な個人メニューが多い)かを実感させられた日向は涙目だった。
「ホラ、早く行かないとなくなっちゃうぞ。大丈夫。去年俺らも買えたし」
「伊月先輩・・・」
どうしようもない雰囲気になってきたため、まだ常識人である伊月が一年生を急かした。
「パンダのエサはパ「行ってきます」」
しかし、お約束。
伊月が思いついたダジャレを言いいきる前に一年生は去っていった。
「・・・・・・」
「いつも心配しすぎだよ。水戸部ー。オカンか!」
「過保護な凛ちゃんもカッコイーよ!」
通常運転な水戸部に小金井に萩。
「伊月君!新ネタ聞かせて!」
「さすが、大和!・・・パンダのエサはパン!」
「ぷっ〜。さっすが、伊月君!おもしろい〜」
「どこが・・・」
伊月のつまらないギャグにはまってる葛に至極冷静なツッコミをする撫子。
「・・・ったく何がちょっとだよ」
「えー。いいじゃんかー」
「これから毎年一年生の恒例行事にするわよ」
「マジか・・・」
一年生達を心配する日向に不満の声を漏らす粟花。
そして、監督の職権を乱用したリコ。
「二年生は相変わらず通常運転ですね」
「そうだなぁ」
そんな二年生バスケ部をほのぼのと眺める桔梗と土田。
実にのほほんとした光景で、今から一年生バスケ部が向かう戦場を去年体験したようには見えないが、去年のこの時期、彼らは数量限定の幻のパンを全て獲得していたのだった。