キセキの始まり
□4Q
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「野守、悪いが手洗いに行ってくる」
「はーい。ゆっくりでいいからねー」
誠凛男子バスケ部と分かれた女子三人のうち、芒は家の買出しに行かなければならない、という旨を先輩二人に告げ、一足先に東京に戻っていった。
そして、撫子を見送った萩は海常の校門で一人、ケータイでブログの更新をしていた。
「ん?」
そして、ふと目についたのは長身の学ランの生徒。
緑色の髪は珍しく人目をひくが、それ以上に萩が注視したのは彼の手にある物体だった。
「え?カエル?なんで?」
彼が持っていたのはカエルと思わしきおもちゃ。
一体、何に使うのだろうかと、思案していた萩だったが、彼が向かう先に黄瀬がいたことに気づき、もしや、と思ってググッたのだった。
「へー、やっぱり『キセキの世代』の一人。bPシューター、緑間真太郎君かぁ」
『キセキの世代』、というキーワードでひっかかったあるサイトに彼の写真が載っていた。
黒ブチ眼鏡に長い下睫が印象的な、美人系のバスケ少年。
しかも、あの学ランは秀徳高校であるから、東京にいるはずの彼がわざわざ神奈川の海常高校に来るなんて・・・と、萩はある種の期待をこめ、彼らの会話を校舎裏からこっそり聞くことにしたのだった。
「お前のふたご座は今日の運勢最悪だったのだが・・・。まさか、負けるとは思わなかったのだよ」
「・・・見にきてたんスか」
お、やっぱ、仲いいのかな?
真面目君とモデル君。
性格は真逆そうだけど。
「まぁ・・・、どちらが勝っても不快な試合だったが」
あらら・・・。
私的にはよかったんだけどなぁ。
特に、火神君のしょっぱなのダンクとか。
「猿でもできるダンクの応酬。運命に選ばれるはずもない」
猿・・・!?
まぁ、火神君と黄瀬君は猿でもいけるか。
うん。
猿の縄張り争いみたいだったし。
今回の試合とか。
さすがは『キセキの世代』。
例えが斬新!
「帝光以来っスね。久しぶりス。・・・指のテーピングも相変わらずっスね。つか別にダンクでもなんでもいーじゃないスか。入れば」
「だからオマエはダメなのだよ。近くからは入れて当然。シュートはより遠くから決めてこそ価値があるのだ」
3点入るからかなぁ?
普通のシュートは2点しかもらえないしねぇ。
「“人事を尽くして天命を待つ”、という言葉を習わなかったか?まず、最善の努力。そこから初めて運命に選ばれるのだよ」
うん、滅多に習わないよ。
やっぱ、見た目通り真面目で博識なんだね。
帰ったら、オーちゃんあたりに訊いてみようかな。
絶対、知らなさそう。
てゆーか、運命論信者なのか。
うちのなーちゃんとは気が合わなさそうだなぁ。
なーちゃんはあくまで、努力家。
運命には絶対縋らないし、無神論者だからなぁ。
特に、占いとか嫌いって言ってたし。
それに、いくら人事を尽くしたって、努力したって、運命が必ず訪れてくれるわけがない。
「俺は人事を尽くしている。そして、おは朝占いのラッキーアイテムは必ず身に着けている。ちなみに今日はカエルのおもちゃだ。だから、俺のシュートは落ちん!!」
カキーン!
ガッシャーン!