キセキの始まり
□3Q
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休日の体育館前。
「あ、リコ。はよー」
「おはようございます」
「おはよう!」
休日とはいっても、誠凛高校男女バスケ部はお互い練習に励んでいた。
体育館では男子が個人練習。
そして、ロードワークを終えたらしい女子が体育館前で休息をとっていた。
そこに現れたのは鼻歌を歌いながらスキップをしている男子バスケ部監督の相田リコ。
「随分と晴れ晴れしい笑顔だな。・・・その様子だと相手方から許可を得られたのか?」
首にかけたタオルで汗を拭きながら尋ねた撫子に、リコはブイサインを決めた。
「おー。よかったね。確か、海常っしょ」
「海常って、あの海常高校!?IH常連校じゃないっスか!」
「へー、そんなにスゴイんだ」
「今度の日曜だっけ?男子の練習試合」
「そう。今から、男子には伝えにいくわ」
「今回は誰が行く〜?」
女子7人で駄弁る中、粟花の発言に萩が反応した。
「はいはい!萩ちゃん、いっきまーす。帰りは自由にしていいでしょ?」
「試合が終わり次第ね。神奈川だし、買い物でもするの?」
「うん。なーちゃんも行かない?」
「・・・あぁ。行く」
練習試合。
誠凛高校は新設校ということもあり、諜報部員に割ける部員がいない。
そのため、ビデオをとったり、マネージャーのような仕事をするために女バスから二人、同行することになっている。
あくまでこれは監督や男子バスケ部からの強制や依頼ではなく、初心者が半数というハンデを軽減するために、去年から女バスが協力的にしていることであった。
男子の試合を見ることで、自分達のプレイに生かそうとする勤勉さもあるが、ただ単に、頑張っている誠凛男子バスケ部を少しでも支えたいという想いからもきている。
そして、去年の自分達の実力の無さを痛感しているからこそ、という自責の想いも。
「よろしくね。萩、撫子」
「はーい。私が差し入れ作ってきまーす」
「あぁ。ドリンクは私が用意しよう」
そんなやり取りをすませ、女子はロードワークを再開させた。
それぞれ個人のノルマを終えるために、それぞれで走るもの。
ペースで言えば、去年までは元バレー部で、コンパスも長い撫子が速かったが、新入部員である芒が入った今、彼女が最も速かった。
そして、一足早く、芒は体育館の傍においてあるドリンクを飲みに行こうとしていた。
「あ、すみませーん」
「ん?どうかしたんスか?」
あれ?
こいつ、どっかで見たことある。
背は火神には及ばないけど高い。
髪は瞳と同じで派手な黄色。
体格もいいし、顔もイケメンな方。
「あれ?もしかして、女子?」
驚いたようなブレザー男子。
午前練で終わったっぽい下校中の文化部女子がキャーキャーこっちを見てくる。
「いちおーは。あんた、もしかして、『キセキの世代』?」
「・・・・・・あ、そっちっスか?もしかして、君、バスケ部?」
「あ、うん。そーだけど」
やっぱそうだったか。
『キセキの世代』の一人。中二からバスケを始めたみたいだけどすぐさまあの強豪帝光中のレギュラーになったっていう天才。
オールラウンダーなSF。
相手の技を真似るのが上手い、だっけ?
「よかった。体育館まで案内してくれない?」