キセキの始まり
□0.5Q
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私立誠凛高校。
創立二回目の入学式も無事に終わり、第一回期生、現二年生は新入部員として一年生獲得に励んでいた。
現在は二年生しかいないため、なおさらその勧誘にも力が入るらしく部活動のブースは大変混雑しており、なかなか先へは進めない。
そんな人込みの中を悠々と歩く影があった。口には棒を咥えており、舌で口内にある飴玉を転がしているようだ。
その姿は自然と雑踏の目を惹く。新入生は驚きの声をあげ、二年生はその反応に渇いた笑いを漏らす。
ゆっくりと進められていた足はある一つのブースで歩みを止めると、そこに設置された椅子に座る女子生徒に声をかけた。
「リコー。部員勧誘どんなもんよー」
「あぁ、粟花。…って、聞いて!」
ガリッと音を立てて、飴を噛み砕いた粟花と呼ばれた女子生徒はそのまま咀嚼し、綺麗になった棒を近くにあったゴミ箱に投げ捨てた。
そのまま椅子に座っていた、彼女自身がリコと呼んだ生徒の正面で頬杖をつく。
「んー、何ー?おもろいー?」
粟花は猫のような橙の目を細め、リコを見上げる。
「聞いて驚かないで!あのキセキの世代がいた帝光中のバスケ部員がうちのバスケ部に入部届け出してくれたの!」
「え?マジ!?誰々?主将、赤司征十郎?エース、青峰大輝?bPシューター、緑間真太郎?鉄壁、紫原敦?モデルの黄瀬涼太はいらねーっか。もったいぶんないでよー」
『キセキの世代』。
その単語に弾かれたようにリコにくらいついた粟花は先ほどの悠々とした雰囲気を一変させて、捲くし立てた。
「いや、うん。あのね、あんたの言う五人でないのは確かよ。えーと、黒子テツヤって子」
「知らねー。誰?強いのー?いかにも、弱って感じの苗字だし。てか、その五人が強豪校がひしめく東京でわざわざ新設校に来ねーか」
「なんで、そう卑屈なのよ。でも、その子は本当に帝光中出身なの!キセキの世代がいた帝光中は部員100人を超える超有名校よ。三軍まであって、層も厚い。その五人には劣るかもしれないけど、少なくとも普通よりは強い選手がこの誠凛に来たかもしれないのよ!」
先程の爛々と輝いていた橙の瞳は既になく、どこか遠くを見つめるような目をしていた。
「あー、うん。ま、新入部員初集合の部活には行くからー。じゃーねー」
「ったく・・・。相変わらずのマイペースぶりね、粟花は」
去っていく後ろ姿見送り、リコは期待に胸を膨らませた。
その視線を受けながら、粟花はポケットから飴をもう一つ取り出し、口に放った瞬間、噛み砕いた。
ガリっ。
「甘っ」