The cruel game of heart
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「なんじゃ?アリス、絞首刑のほうが良かったか?」
紅で彩られた形のいい唇がうっそりと歪められる。
それを認めた碧の瞳は大きく揺らぎ、幼さの残る面差しが蒼白になった。
建造物の大半が赤く染められたハートの城。
そこで、大輪の赤薔薇に囲まれた庭園の一角で、女性同士のお茶会が開かれていた。
中央にすえられたシンプルな白いテーブルには、色とりどりのお菓子や芳醇な香りを漂わせる紅茶が整然と並んでいる。
先ほど、不敵な笑みを湛えたのは、豪奢な赤いドレスに、赤みがかった紫の髪を縦巻きにした妙齢の女性――ビバルディである。
彼女はこの城の最高責任者であり、ハートの女王という名の役についている。
もう一人、そんな高い身分にある彼女と同じテーブルに座しているのは、いまだ幼さの残る少女であった。
青いエプロンドレスに、茶金色の髪を飾る青のリボンが印象的ではあるが、どこか活発的な雰囲気のある少女には少々不率合である感が拭えない。
この少女は余所者という、この世界とは別の世界から来た珍しい存在で、そのため彼女、アリス=リデルはこの銃弾飛び交う物騒な世界において武器を持たずに、命の尊さを重んじ、今まで命を枯らさずに存在できている。
色合いから見ても、思考からしても対照的な二人の周りには数人のメイドがいた。
黒と赤を基調とした愛らしいメイド服を着た彼女たちには顔がない。
いや、それは語弊がある。
正確には顔がぼんやりしていて、前者の二人に比べ存在感が薄いのだ。
ビバルディを役持ち、アリスを余所者と評すならば、彼女らメイドは役無しに部類される。
役持ちといわれる少数の権力者は存在感、戦闘力が役無しとは比較にならないほどで、はっきりとした顔を持っている。
それに対し、役無し、別名顔無しといわれる人々は国民の多くがそれに当てはまり、よく役持ちの気まぐれで殺されることもしばしば。
しかし、代わりがいるという概念がこの世界にはあり、役があろうとなかろうとこの世界の住民は己の命さえ無意味だと謳う。
その思考をアリスはなかなか受け入れられず、幾度となく役持ちの命を奪う無意味な遊戯を止めさせようとした。
しかし、そうはいっても今は夕方で、首切りが趣味な女王のお気に入りの時間帯で、血なまぐさいワードも雰囲気もなく優雅にお茶会を楽しんでいた。
つい先ほどまでは。