The cruel game of heart
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一つの銃声に、各所から悲鳴や驚愕の声が上がる。
お姫さんに視線を向ければ、俺との会話を遮られたせいか、舞踏会に水を差されたせいか、不機嫌そうだ。
前者であってほしいというのは、俺のわがままだけど。
「お姫さん……」
「なんじゃ」
ソファから腰を上げれば、彼女は怪訝そうな眼差しを向けてくる。
発砲されたのは、彼女でも俺でもない。
だから、首を突っ込む必要がないとか思ってるんだろうな。
俺も、そうしたいのは山々だ。
彼女ともう少し団欒を楽しみたい。
だけど、それは難しいかな。
ルールに触れるギリギリというか、ちょっと触れてるぐらいの行為を続けてしまっているから、ここいらで挽回しないといけない。
“また”、壊しちゃうのは、失うのは、嫌だから。
「俺の“管轄”だから……、ちょっと席を外すね」
黒いスーツが、黒いコートへと変わる。
左の腰には、華奢な俺が帯刀しているからか余計にでかく見えるだろう大剣。
それは、まるで、ハートの騎士のような洋装。
だけど、赤じゃなく、黒。
所々にあしらわれた装飾は青。
髪は肩口より長かったけど、それ以上に伸びて、腰よりも長いかな。
かたっ苦しくて、鬱陶しくて仕方がないけど、正装じゃなきゃ、“執行”はできないんだよ。
これも、“ルール”だからさ。
横で括っていたそれを、後ろに流して結びなおす。
これで、かなり鬱陶しさは軽減される。
「…………、後で、尋問じゃ」
目を見開いて、俺の姿に驚いているお姫さんが、剣呑に目を光らせる。
お姫さんに害を与える気はないよ。
余所者にもね。
だけど、それを伝えても信じてはくれないだろうから、言葉にはしない。
それに、“ルール”に反するだろうからね。
本当に“ルール”ってのは厄介だ。
その境界は曖昧だからこそ、その者の自己判断で反したか、否かが決まる。
こんなんで世界が成り立つんだから、不思議でならない。
ま、世界を構成しているのが意思だから、仕方がないのかもしれないか。
「くくっ……。お手柔らかに頼むよ。…………兵士くん。ビバルディをお願いね。傷つけさせる気は毛頭ないけど」
そんな思考を巡らせながら、俺は恭しく一礼した。
護衛を、さっき水を持ってきてくれた兵隊に頼んで。
「は、はい!」
勢いよく敬礼する兵隊。
無論、役を持っていた方が強いし、心配はいらないだろうけど。
ま、宣言通り、俺が彼女の元まで危害を及ぼるのを赦すはずがないからね。
俺の目の届かないところでやればよかったのに、なんてタイミングが悪いんだろうね。
まぁ、“監獄行き”よりはマシだろうね。