心と秋の空

□11.従:位地
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昼休み。
 
あっという間に全校生徒に広まったレイとの噂。

なんなんだろう、この学校。

暇人が多いの?

だけど、まぁ、桃井ちゃんからは私を心配するようなメールが着ていたり、一軍ルーキーからはそれぞれ個性的なメールが着ていた。



【FROM 桃井ちゃん こんにちは!大丈夫でしたか?何かあったら、いつでも相談してください!!あと、青峰君が私のつくったドリンクがまずいっていじめてきます(T-T)】

【FROM 緑間君  今日の先輩のラッキーアイテムはリストバンドです。リストバンドマニアの先輩なら常にもっているだろうから、それを肌身離さず持っておくべきだ。ちなみに、今日のかに座は一位だったのだよ!】

【FROM 紫原君  今日の部活、お菓子持ってきて】

【FROM 青峰君  銀のカップサイズっていくつ?さつきのよりもデケェ?】

【FROM 赤司君  お久しぶりです。一週間の休養はいかがでしたか?今日という今日は部活に来てください。これ以上、桃井のドリンクには耐え切れません。来なかったら…、分かってますよね?】
 


……ほんと、個性豊かすぎる。

赤司君なんて、後半脅迫文だし。

しかも、紫原君は先輩をパシろうとしてるし。


「あはは…」
 

思わず漏れた笑声。それをレイが認めて、柔和な視線を向けてきた。


「バスケ部のやつらか」

「うん。今日の放課後、部活行ってもいい?」

「あぁ。待っている。楽しんで来い」

「ありがとう!」
 

レイとの帰宅。

それは帰り道だけではなく、帰る場所も同じであることを意味している。

一週間だけではなく、気の済むまで泊まればいいというレイの好意に甘えた結果だ。

その代わり、家事の手伝いや私にできる仕事はさせてもらう。

半ば、居候のような立場だけど、窮屈感はない。

なかなか厚かましいと自分でも思うけれど、レイと一緒の屋根の下にいるというだけで、すごく安心するのだ。


「…そろそろ来るらしい」
 

レイのスマホにライン通知が来たらしく、画面にメッセージが表示されていた。

それを見るレイの目は優しく、恐らくもう一人の昼食のお供のよう。

どんな子かな〜。

クラスメイトだったら、どうしよう。

レイとお昼食べるんだから、少なくとも派手な女子じゃないよねー。

きっと、大人しくて文学美少女とか?はたまたクールな女の子とか?
 
ガチャっ。
 
屋上のドアが開いた音がした。期待に胸を膨らませ、首を巡らせた。


「わりぃーわりぃー。顧問に捕まってよー」

「……え?」

「…お?なんだ、空ちゃんじゃん。え?何で、レイといんの?」

「まずは、座れ。祥吾」

「おう」
 

まさかの名前呼び。

そのことにも驚いたけれど、まず最初に、レイと共に昼食を摂る人物が一軍ルーキーの最後の一人、灰崎祥吾君だとは思っても見なかった。

彼は一般的に不良と呼ばれる類で、よく授業も部活の朝練もさぼっていると修君が愚痴ってたっけ。

でも、どうしてそういった不良と呼ばれる類の灰崎君がレイと親しいのか。

本当に疑問だ。
 

彼は向かい合う私たちと同じく円になるように座り、コンビニの袋を漁った。

中から現れたのは、ハンバーグ弁当。

…ちょっと意外。

ハンバーグ好きなんだ。

もっとガッツリしたのだと思ってたから、ちょっと可愛い。


「また、コンビニか」

「いいだろ。お、その卵焼きくれ」

「構わない。口を開けろ」

「サンキュ」
 

開かれた灰崎君の口に、レイのお弁当からとった卵焼きが吸い込まれる。

…これはいわゆる、あーん、というもので。

それを恥らいなくやってのけるレイって…。

口をもごもごする灰崎君。

…あれ?不良だよね。

何か、ハムスターみたいなんだけど。

…あ、飲み込んだみたい。


「相変わらずうめーな。また、飯作りにきてくれよ」

「いつがいい?」

「レイが空いてる日ならいつでもいーぜ。ミートボールな」

「わかった。また後で連絡する」

「おう」
 

…仲良いなぁ。羨ましい。


「で、なんで空ちゃんがいんの?」
 

その視線は純粋なる好奇心。

イメージとは異なる彼からの視線に少し戸惑いながら、私はレイに視線を送る。

彼にありのままを伝えるべきなのか。

その決定権さえレイに押し付けてしまっていた。


「………居候だ」

「マジ!?俺もレイん家行きてーなー」

「…また今度な」

「ちぇっ。空ちゃんだけかよ」
 

……、私よりも仲がいい。

レイのありふれた言葉の真意を、彼は正確に汲み取っている。

私の目なんかよりも、ずっとすごいし、羨ましい。
 
はたから視るだけでも親しく視える。

やわらかい。

二人を包む空気が。

特に、灰崎君の、レイに向けられる視線。

まるで鳥の帰巣本能のような、レイが唯一の拠り所であるかのように。


「なぁなぁ、レイ。今日、火曜日だし部活ねぇんだろ?」

「あぁ、そうだが」

「じゃぁ、体育館来いよ。レイが来んなら、俺真面目にバスケやるぜ?」
 

二人が言うように、昨日は祝日で今週の初めての登校日は火曜日。

つまり、レイが一人で運営している、月・水・金活動の茶会部は休み。……じゃなくて。
 
真面目に部活に来ようよ。そんなだから、修君の機嫌が悪くなるのに。
 
そんな私の考えが分かったのか、それとも私のじと目に気づいたのか、…恐らく後者だろう。

灰崎君が私に声をかけた。


「もしかして、部活に来させようって魂胆だった?」
 

僅かにピリピリした空気。

それが発せられるのは灰崎君から。

現に彼からの視線は先ほどのやわらかさはなく、鋭い。


「俺が行かずとも、真面目にやれ」

「いてっ」
 

スパンっ。

小気味よく、灰色の頭をお箸ケースが叩いた。


「何すんだよ」

「ふざけてないで、早く食え。昼休みも残り少ない」

「さぼるからダイジョーブだって。何なら、レイもサボんねぇ?」

「却下」

「真面目すぎだって。で、来てくれんの?」

「………午後の授業をサボらなければ、な」

「えー」

 
快い返事をもらえなかったからか、不満げな灰崎君。

短気でやられたらやり返すような印象が強いのに、レイにやり返すようなことはない。

ましてや、彼の纏う空気が再びやわらかくなった。

対するレイの表情は呆れていて。

まるで、手のかかる弟に対する姉のような構図。


「黙って食え」

「むぐっ…!」
 

再びレイのおかずが灰崎君の口に吸い込まれた。

ただし、今回は灰崎君の意表をついたもので、たこさんウインナーの足がはみ出ていた。

…笑える。


「見に行くから、早く飯を食い終われ」

「…おう!」
 

ぐいっと飲み込んだ灰崎君の晴れやかで無邪気な顔。

それは彼の悪い印象を一掃するには十分な純白の色だった。




 
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