キセキの始まり

□1Q
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無事に午前の授業が終わり、休み時間中、読書に没頭していたレイを遠巻きに眺めていたクラスメイト達。

しかし、昼休みになり、勇気ある数名はお昼を共にしないかと誘っていたが、先約がいるとやんわり断られていた。
 
レイは肩まである銀髪を右側だけ耳にかけると、弁当を片手に教室を出た。
 
他のクラスからわざわざレイを見に来る者もいたが、当の本人は全く意に介さず人だかりのできた廊下を悠然と歩く。

声をかける者も後を追いかける者も写メを撮る者もおらず、人気モデルを生で見れたことに興奮し、狂喜する学生らを教師が注意するまで数十秒かかった。


「あいつすげぇ人気だな」
 

一方、芸能情報に全く興味をもたず飯とバスケしか頭に無い火神は大人気のレイを見て、自分の後ろの席に声をかけた。

・・・が、反応は全く返ってこない。


「黒子?」
 

何シカトかましてんだ、とややキレ気味に振り返れば、そこにいるはずの影の薄い少年は本当にいなかった。


「どこいったんだ?」
 

いつもは教室で昼食をとる筈のクラスメイト。

いないことを少し不審に思いながらも、空腹を主張する自分の欲求に従い、火神はパンを頬張ることにした。




















 









屋上の扉が開いて、陽光が銀髪の煌きをさらに際立たせる。相変わらず綺麗で、荘厳だった。

そして、彼女は扉を開けたまま、僕のほうを振り返る。


「・・・・・・憑いてくるなよ」

「・・・憑くって酷いです。銀さんが呼んだんでしょう?」
 

相変わらずなのは、見た目だけじゃなくて、中身もだったようで。

すごく安心した。


「後をつけられるのは好まない。お前だからいいものの、他の奴なら五分の四殺しにしていたところだ」

「それ、ほとんど死んでますって。それに、僕は銀さんがお昼の合図をしたので、ついてきただけです」
 

やや不機嫌そうな銀さんの台詞。

そこには物騒な言葉も含まれていたけど、銀さんなりのジョークだから。
 
右耳に髪をかける仕草はお昼を誘う合図。

彼女がモデルを始めてから周りが騒がしくなったときあたりから始まったサインは、今でも全て覚えている。


「あぁ、そうだな。・・・・・・久しぶり、黒子」
 

少しだけ緩んだ銀さんの表情。

太陽のように眩しいのではなく、優しい光。

まるで月明かりのような淡く、影を包み込むような。


「お久しぶりです。銀さん」

「相変わらずそうだな。お前の影の薄さは」

「でも、銀さんはいつだって気づいてくれるでしょう?」

「ハハっ。買い被りすぎだ」
 

そう。

いつだって銀さんは僕に気づいてくれる。

意識して影を薄めても、彼女だけは僕をみつけて、手を引いてくれていた。あの時までは。


「いえ。・・・・・・まさか、貴女がここに入学しただなんて知りませんでした」

「怒ってるな、お前」

「えぇ、少し」

「・・・・・・困ったなぁ」
 

口ではそうは言ってるけれど、表情は本当に穏やかだった。

でも、実際僕が銀さんに対して怒っていることは本当だ。

何も言わずに姿を消した彼女の足跡を辿ることさえできずに、僕らは高校生になった。

そして、新設二年目のこの高校に入学しているとはきっと、誰も予想できなかったに違いない。
 
怒り。

驚き。

悲しみ。

苦しみ。

辛さ。
 
いろんな感情がせめぎあう。

だけど、それは過去に囚われたままの想い。

だからこそ、僕は現在の真実を確かめなければいけない。





「・・・・・・今、バスケは好きですか?」
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