キセキの始まり
□1Q
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職員室。
朝礼が終わり、一時間目が始まる前、担任と思われる教師の前に一人の女子生徒が座っていた。
「面白いことしてるんですね。バスケ部さん」
くすりと笑む少女に男性教師は苦笑いを浮かべた。
「暢気なこと言ってる場合じゃない。去年もバスケ部はこの騒動を起こしててな、こちらの身にもなってほしい」
「でも、青春って感じですね」
あくまで肯定的な姿勢を崩さない少女に、教師は呆れながらも、少し誇らしげに呟いた。
「ま、去年男子が実際いいとこまでいったのも本当だがな。・・・よし、じゃ、教室に行くか。一時間目は俺の英語だからな、わからないことがあったら、訊けよ。あー、でもお前なら大丈夫か。何たって、前代未聞の高校入試パーフェクト出した銀なら」
「そんなことありませんよ。まだまだ未熟者ですから」
1−Bの教室。
宣言をした火神、未遂だった黒子は教師からの説教を受け、不機嫌そうに次の授業の準備をしていた。
「何で、あれくらいで怒られるんだよ」
「僕は未遂だったのに怒られましたよ」
「お前もさっさと言っちまえばよかったのに」
「常盤さんに先越されてしまいましたね」
そこでチャイムが鳴り、席を立っていた生徒も椅子に腰を落ち着けた。
そして、鳴り終わる前に教室のドアが開き、担任である男性教師、その後に見たことのない美麗な女子生徒が入ってきた。
その少女に対し疑問を口にし、騒ぎ出す生徒達の中で、黒子は瞠目していた。
「なんで・・・?」
「モデルの銀レイ!?」
黒子の小さな呟きを掻き消すように、ある男子生徒が立ち上がった。
その声にクラスはさらに騒ぎ出す。
「あの銀レイ!?」
「本物!?」
「男装モデルもやってるっていう!?」
「めちゃ美人!?」
止まらないクラスメイトの声と聞き覚えのない名前に火神は黒子を振り返った。
「あいつそんなに有名なのか?」
「え、ええ。モデルをやっている銀レイさんで、かなり有名な人です」
「へー」
黒子のどもった姿を珍しいと思いつつも、そんな有名人が教室にやってきて驚いてるんだな、ぐらいにしか火神は捉えなかった。
すぐに銀に視線をやり、後ろの席の黒子を特に気に介さなかった。
「お前ら、落ち着け!シャラップ!」
担任の声に静まることなく騒ぎはなかなか沈静しない。
そんな中、レイが口を開いた。
「Please be quiet,everybody.[皆さん、お静かに]」
落ち着いたアルトの声に流暢な英語。火神はその発音に懐かしさを覚えつつ、唖然と静まり返った教室内を見回した。
彼女の奇策は成功したようで、誰一人口を開こうとはしない。
「初めまして、銀レイです。よろしくお願いします」
そう一礼した後、彼女は担任の示した席に座った。
「よろしく」
「おう、こっちこそ」
そこは火神の前。
つまり、彼女は窓際の一番前。
右隣の女子生徒に軽く挨拶をし、教材を机の上に出した。
挨拶をされた女子生徒は同性でありながらも、中性的な美しさをもつレイの笑顔に顔を赤らめていたが、レイは授業を開始するよう担任に目を遣った。