岩男

□執着
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最近、ふと考える考えるようになった。


僕とは何なのだろう。


人間のようで人間じゃない。
ロボットなのにロボットらしくない。
感情がある。
怪我をしてもメンテナンスさえすれば治る。

今感じている感情も全て、本当は僕の感情なんかじゃなくて元々設定されていたプログラムなのかもしれない。

君が好きだという気持ちも、プログラムなのかもしれない。

そう考えると、僕はなんて空っぽなんだろうと、悲しくなった。


それをある日君に言ったんだ。
そしたら、君は驚いたように目を見開いて僕を抱きしめた。



「…私達の精神プログラムは自ら育っていくものだと教えられたでしょう?」

そういって君は困ったように微笑むけど、それでもまだ納得なんて出来ない。
僕は俯いて細々と言葉を紡ぐ。


だって僕には魂は無い。
命や肉体なんて僕は持ってない。

「だって僕は人間じゃなくてロボットだから。」


何故か、瞳から冷却水が流れる。
頬を触ると感情が高ぶって機体が熱くなっていたことに気付いた。

「あっ…なんで…?」

エレキにこんなみっともない姿を見せたくなかった。
でも、どんなに拭っても冷却水は止まることは無かった。




ふと君は僕の手を掴んで自分の胸を触らせる。
人間で言うと心臓の部分だ。
そこには動力炉が密集しているため、機体の中では一番暖かくなっている。


「…何故、貴方は人間にこだわるのですか?」

エレキは僕の頬を触り、真剣な顔で聞いてきた。
僕は何も答えられずにエレキの瞳を見つめるしか出来なかった。

「貴方は生きたいのですか?」

「…もちろん生きたいよ…中途半端は嫌だ…」



「何故貴方は、自分が生きていないと思うのですか?」





何故?
だって僕はロボットで。
なのに自我を持っていて。
壊れても直せて。

「確かに、私達は人間とは違います。でも私達はロボットという生物です。コアまで壊したら死んでしまいます。」

でも、でも、
命や温もりは無くて。
エレキの胸は温かいけど、それは動力炉があるからで。

「私達にとって動力炉は人間で言う心臓でいいのですよ。」

自我だってプログラムかもしれないのに。

「それでも貴方が持っているものなんですから、それは貴方の感情ですよ。」

エレキはそう言うと僕を抱きしめた。
大きくて暖かい身体。
少し早くなっている動力炉の稼動音。
全てが愛しく感じる。

「そこまで人間にこだわらなくても私達は生きています。」

エレキは僕にキスをした。
触れるだけの、優しいキス。
僕は目が覚めるような感覚に陥った。





「…それに、ロックを愛しいと思う気持ちは私のものです。プログラムなんかに私の気持ちは決めさせませんよ。貴方もそうでしょう?」

「…うん!」

僕はエレキに抱きついて、今度は僕からキスをした。





僕は人間に憧れていた。
完全なオリジナルで自我をちゃんと持てる。
そんな人間たちが羨ましくて、僕は何でロボットなんだろうと思った。

でも、違うんだ。
暖かい動力炉がある。
自我だって持てるんだ。
よく考えれば、ライト博士は僕達を人間と同様に作ってくれた。
人間のように接してくれて、僕達に愛情を注いでくれた。

僕も生きているんだ。

エレキを愛しいと思うのも全て僕なんだ。

その事が分かった瞬間、僕は人間になりたいという執着はなくなって。
代わりに生きているという幸せとエレキを愛する気持ちでいっぱいになった。
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