短編小説部屋

□Episode.03
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「あの、これは……」
「それはこの地域一帯の地図です。この城から北の方角に進むと、種を奪って行った魔獣がいます。我々は知恵と補助には長けていますが、戦闘には長けていません。せめて出来る限りの最大の支援をさせてくださいね」

 玉座から立ち上がり、三人の下に歩んできた女王からは花にも似た優しい香りを纏っている。白く細い指で背中を撫でると、ジョルジュの肩から白銀の翼が勢いよく飛び出した。驚いている二人にも同様に翼を与え、三人からは歓喜の声が上がった。

「此処から北の洞窟まではかなりの距離がありますので、飛翔して行けば歩いて行くよりも格段に早く到着する事が出来ますよ」
「すごいすごい! これがあれば何処でも行けちゃうよね!」
「人間はその昔天使と崇められ、私達と同じように空を舞っていました。ですが領土を地表に構え、いつしか飛ぶ事を忘れてしまったのです」

 女王の話によると遥か昔では人間も空を駆けていたが、それは皆が知る事のない過去の事。確かに今は大地を歩き、空を見上げている。それに対して当たり前の事だと思っていた。否、空を飛ぶという概念が全く無かった。
 何故飛ぶ事を止めて地を選んだのかは分からないが、皆の背中には今も見えない翼が眠り続けているのだ。戸惑いながらも勇気を出して新たな一歩を踏み出す時、それはもしかすると翼が羽ばたいた時なのかもしれないとジョルジュは暖かな気持ちに包まれる。

「必ず……希望の種を持って帰ります!」

 慈愛溢れる笑みを受け、その想いに応えるべく熱い意思を込めて王室を後にする。地図を確認すれば大まかな地理が記載されており、目的地と現在地が青白く光っている。これを見ながら進んでいけば迷う事はないだろう。
 安堵を込めて進む通路の先ではスプラが壁に背もたれて待っていてくれた。胸元で指を組みながら駆け寄ってくる姿に、カミュはまるで子供をあやす様に彼女の頭を優しく撫でた。

「心配ないわよ。あたし達が必ず持って帰ってくるから!」
「皆さん、どうかお気をつけて。……あの、ジョルジュさん?」

 不安を隠し切れないような瞳から大きな心配の念を感じた。自分達では到底敵わない相手を任せるのだ。申し訳無さに心が潰れてしまいそうな気持ちもよく分かる。
 デイジィの隣を見ると彼女も眉を下げて肩を落としており、やはりジョルジュも不安で一杯なのだろうか。

「ちょっと、どうしたのよ? あんたがそんなんじゃ活路なんて見出せないわよ」
「お腹…………減った……」

 どうやら空腹によって元気が無かったようだ。先程女王に告げた堂々とした意思は一体何処に行ってしまったのだろうか。振り返ればこの世界に来てから随分と長い時間を経てきた。好奇心旺盛もさることながら食欲も旺盛な彼女にとってこの空腹は耐えられないのだろう。二人からは落胆混じりの苦笑がつい零れる。
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