短編小説部屋

□Episode.03
2ページ/8ページ

「あの影は……!」

 駆けていた足を後方へと強引に方向転換し、青に輝く闘気を瞬時に捲し上げた。今此処にいるのは夢の中で逃げていたジョルジュではなく、いつもの気丈な姿。目の前に敵がいたならば、真正面から立ち向かう勇気を持っている彼女だ。

「さっきはよくもぉーーーッ!!」
「ジョル、無駄でぇ!!」

 轟音が唸る右手から特大の気弾を放つ。遅れて気付いたザウバーの制止は間に合わず、止めた頃には既に放った後だった。
 落ち着かないように揺らめく影は、迫り来る気弾に対して避ける仕草を見せない。否、仕草どころか、避ける気すら全く無いかのようだ。着弾し、大きな爆発音と共に城全体が大きく揺れる。

「あれを喰らえばひとたまりもないはずよ!」
「チッ、馬鹿かテメェはよ。よく見てみやがれ!」

 拳を握るジョルジュに対し、ザウバーは否定を述べる。彼は既に確信を得ていた。あの影に対して攻撃をしても何の意味も無い事を。
 爆風が止んで砂煙が少しずつ落ち着くと、その答えが明快となる。視界に映るのは破壊された城の入り口と……何の変化もなくその場で揺らいでいる影の姿であった。

「ちょ……何で!?」
「今のではっきりしたぜ。奴は術者により生み出された影だ。恐らくここへ戻ってきた時に、術者から別の指示を与えられた。『奴らが来るからもう追いかけなくていい』とな」
「じゃあ、あの影はあくまで影で、殺傷能力もない追いかけるだけの影って事?」
「違うな……追いかけながら生気を吸っていたんだろう。元の世界の姿は扱けていたが、今はいつものテメェだ。肉体と精神は一緒でありながら別物だからな。まったくもって性根の悪ぃ輩に狙われたって事でぇ」

 感心を込めてザウバーを見遣った。確かにあの影は初めに見た場所から全く動いていない。今まで長い間戦いの場に身を置いていたからこその経験と勘なのだろう。情報解析と現状把握はあのティアラにも全く引けをとらない能力を持つ。
 再び走り出すも影は追いかけてくる訳でもなく、その場で留まっているだけだ。階段を登り切ると、見えたのは謁見の間に繋がる大きな扉。ザウバーはその勢いのまま扉を蹴破った。
 派手に吹き飛んだ扉が宙を舞う。開けた視界には正面に一人、頬杖をついて玉座に座っている男がいた。

「部屋に入る礼儀を知らねぇのか……人間よ」

 白い大きなマントを羽織るこの男。武道家を思わせる程の体躯は、まるで筋肉の鎧を纏っているかのよう。真っ黒の長髪をかきあげると、見える眼は鋭いものだった。

「ふざけんじゃねぇ。テメェの目的はいってぇなんだ?」
「俺の目的は……奴がよく分かってるはずだ」
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ