掌編小説部屋

□Episode.10 出会う形が違っていたら
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「おい、俺ぁ帽子ってのは嫌いなんだがな。視界が遮られていざとなったら……」
「いやー、思ってた以上に似合ってるな。その分厚い胸板に惚れちまいそうだよ。じゃあ町を歩いて宣伝してきてよ!」
「な……なにぃ!? こんな格好で娑婆を歩けだと?」
「頼むよ! こんな服を売ってるんだって宣伝しなきゃお客が入ってくれないじゃないか」

 哀願する亭主に唸るが、引き受けたからには最後までやり遂げたいという思いもある。乗った船ならば最後まで航海しなければ意味は無い。涙目で抱きついている亭主にげんなりしながら覚悟を決めたザウバーはさらに帽子を目深に被り、誰にもバレないように気配を完全に殺しながら仕方なしにと町に出る事にした。

「いいか、町を一周してきたら戻ってくるからな! それまでにどぶろくと着替えを準備しておけよ!!」

 捨て台詞に近い言葉を残しながらガニ股で不器用に歩いていく姿はまさに滑稽である。着慣れない服装である事が大きな要因であるだろうが、気恥ずかしさを隠す為にあえて気丈を振舞っている姿が何とも痛々しく見えた。


 その頃、また別の所では……。
 此処は可愛い服が売っている小さな小さなお店。赤と桃色に染められた店内には煌びやかな装飾品が並び、所狭しと服が陳列してる。頭頂部の髪の毛を結ぶバックルを買いにきたジョルジュだが、やはりここは年頃な女の子。豊富な品揃えに目を輝かせながら色々と物色していた。

「……んぅ? 何これ」

 棚の並びにチラシが山済みに置いてあり、書いてある内容を見ると彼女の表情が途端に明るくなる。その内容とはキュレソールから初入荷した数々の服のモニターを募集していたもので、新しい物好きな彼女がこれを見て興味が湧かないはずがない。

「ねぇねぇ、このモニターってまだ募集してるんですか?」
「これから募集しようと思ってたので……やって頂けますか?」
「勿論! 面白そうじゃない♪」
「ありがとうございます! ではこちらに……」

 店の奥に案内されたジョルジュは店員が見繕った服に早速着替える事になるが、奥にはまだ陳列されていない新商品が山積みになっている。話をしながら小さな飾り物を吟味していく。
 そして三十分後……、ヒョウ柄のシフォンブラウスに黒のミニ。足元はサイドにリボンの付いた可愛らしいショートブーツ。髪にも変化をと、いつもの髪型からフロントにふっくらとボリュームを持たせてカチューシャで留める。少しばかり化粧もして、長年の付き合いのソフィアでさえパッと見ではジョルジュとは分からない容姿になった。
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