掌編小説部屋

□Episode.08 ジョルジュ 看護の女王!?
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 父が仕事場である鍛冶場に入った直ぐに二人が迎えに来てくれ、三人はアネッザへと向かう。満面の笑顔で見送るジョルジュに心配しながら何度も何度も振り返えるのは、やはり懸念が払拭されないのだろう。少し早目に帰ろうと思ったララは堅実な判断であった。
 そこから暫くして部屋の戸を小さくノックするのは自称看護の女王。湯気が上がる鍋を持参しているのは、思いも寄らぬ素晴らしい準備と配慮である。

「デイジィ、気分はどう?」
「ん……ああ。さっきより幾分は……楽になったよ。だがこれは決して風邪じゃない。勘違いするんじゃ……へ、へっくしょい!」

 弱い姿を見られたくないのか気丈さを表に出しているも、やはり表情にはいつもの晴れ晴れしさがない。持ってきたお粥を差し出すも、食欲が減退しているのか顔を背けて拒否を向ける。
 だが風邪で体力が落ちている分、少しでもいいので食べて回復に向かってもらわないとこの状態は長引いてしまう。蓋を開けてスプーンで掬うと、デイジィは諦めたように口をほんの少しだけ開けた。折角自分の為に作ってくれたのだ……と思うと、その気持ちに応えなければならないのは人情というものだろう。

「はい、あーん♪」

 差し出されたお粥を食べると、先程まで虚ろだった目が一気に開いた。このお粥には一口食べただけで元気を取り戻してくれる薬草でも入っていたのだろうか。

『あぢぃぃーーーーーッッ!!!』

 デイジィの目に瞬発的に活力が戻った理由はただ単に熱い事であった。ぐつぐつと煮え滾るお粥を冷まさずに口に入れればどれだけの惨事が待っているかは自ずと理解出来よう。だがジョルジュはその事には全く気付かずに、続けて熱々のお粥を差し出す。

「ジョ……ジョルジュ! 食べさせてくれるのはいいが……少し冷まして……くれ」
「んぅ? 熱い方が身体も暖まっていいんじゃないかな。ほら、あーん♪」
「だ、だからそうじゃなく……あっあちっ、あっあっ……ふぐぅ!?」

 全てのお粥を食べ切った頃、彼女の唇は明太子のように赤く腫れ上がっていた。それでも文句一つ言わずに完食したのは気持ちに応えたい一心からであろう。否、喋る隙すら与えられなかったかもしれないのは彼女のみが知る所である。

「じゃあ次は身体を拭いてあげるから、ちょっと待っててね♪」

 そう告げて部屋から出る背中を見て溜め息を出しながら、ヒリヒリと痛む唇を摩っているデイジィ。嫌な予感に襲われるのは気の所為ではないと、これまでここに住んでいて養われた第六感が物を言う。
 暫くして持ってきたのは大きな氷が入ったバケツで、それを見て表情に青みが差す。タオルを濡らして額に乗せるのならば問題は無いのだが、彼女は身体を拭くと言っていた。あの氷水を一体どう使うのか……考えれば考えるほど悪いイメージが思い浮かび、そして次第に現実味を帯び始めている。

「背中から拭くから服を巻くってくれる?」
「………………。」

 その一言であの氷水の使用方法を完全に理解する事が出来た。見るからに冷たそうな水の中にタオルを入れ、そっと水気を絞る。同時にデイジィの肝も絞られそうな感覚に襲われた。
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