掌編小説部屋

□Episode.07 言葉と気持ちは裏腹に
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『ソフィアのケーキか。前に食べたら美味かったよなぁ。だが今食べたら火に油を注ぐようなものだろうな……くそぅ』
「……いらない」
「でも……」
『ソフィア、すまない。今は食べられる状況じゃないんだ』
「食べたくないんだ」

 差し出されたケーキは極力視界に入らないように押し出して拒んだ。もし目の前にあれば食べたくなるのは自然の道理だが、今食べればどうなる事になるかは自身がよく分かっている。今は食べる事よりも耐える事に必死なのだ。
 断られたソフィアは眉を下げ、俯いて肩を落としている。ミカエルがそっと手を添え、耳元で何かを呟いている。デイジィは心の中で深く詫びるが、押し寄せる歯痛によって只々沈黙に没頭するのみであった。

「おい、一体どうした。何かあったのかい?」
『だから歯が痛いんだって。あまり喋らせないでくれ!』
「……何でもない」
「そうかい、だったら消えな。見てると気分が悪くなるよ」
『何故かティアラの機嫌が悪くなってる……な。あたしは変な事言ってるつもりはないんだが……』

 今の一言で場の緊張が一気に高まってしまった。それまでの団欒が一瞬にして消え去り、硬直状態にある。静まった場にジョルジュも心配気に二人を見ていた。

『いってぇぇーーーーッ!!』

 その時、今までにない針を刺すような尖った痛みがデイジィを襲う。顔を埋めて我慢をするが、頭部まで響き渡るような痛覚に一瞬我を忘れてついテーブルを叩いてしまった。
 突然の出来事に皆の視線と身体が固まる。ティアラの一言がその逆鱗に触れた……そう思わざるを得ない行動であった。 

『う……あまりの痛みにテーブルを叩いちまった。ダメだ、座ってたら余計に歯痛が酷くなっていくような気がする。少し歩いて気を紛らわすしかなさそうだな。ちくしょう』
「ちょっと……外に出るよ」

 怒りにも似た空気と言葉を残し、デイジィは皆に背を向けて場を後にした。眉を顰める者、溜め息を吐く者、解釈は様々だがやはり場の雰囲気が落ち着かない。悲しくなったのはジョルジュだけでなく、この場に居る全員だ。どうにかして彼女の不機嫌となった原因を取り除きたいと願うのは仲間を想う心があるからこそだ。

「本当、どうしたのかな。デイジィらしくない……かな」
「う……ん。此処に来るまではそんな事なかったんだけどなぁ」
「フン。何があったのかは知らないけど、機嫌の悪い奴は放っておくのが一番だよ!」
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