掌編小説部屋

□Episode.05 かっとび!ルドラマウンテン
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「バカヤロウ! 物には限度があらぁ!!」
「うるっさいわね! 思い切り漕げって言ったのは親父でしょ!!」

『おーっと! どうやらジョルジュ選手が思い切り漕ぎすぎて、チェーンが切れてしまった様ですね。これじゃ前に進まないぞぉーーっ!』
『出だしで詰まるなんてね。奴らしくていいじゃないか』
『見兼ねた関係者が新しい自転車を差し出してくれましたぁー♪ さて、そんな中で先頭を走るのは……なんと、棟梁の源さん夫婦だぁ! 夫婦だけあって流石に息も合っていますねぇ。これは予想外の展開になりそうだぁーっ!』

「クソッタレ、テメェの所為で思い切り出遅れちまった! どきやがれ!!」

 急遽ザウバーが後ろに乗り、ジョルジュがハンドルを握る。ギュッと締め直したハチマキに気合いを入れると、再び自転車は動き出した。

「うおおりゃああぁぁーーーっ!!」
「うわわわっ!?」

『おお!? なんとなんと、ジョルジュ・ザウバーペアがもの凄い加速で遅れを取り戻そうとしているぞぉ! これはまさにロケット弾と言っても過言ではないーーっ!!』

 後方に砂煙を巻き上げながら猪の如く一直線に突進してゆく。素晴らし過ぎる加速力と、体重の軽いジョルジュが相俟って前輪が宙に浮き、まさにウイリー状態で突進していく。その推進力は今大会で一番は確実だろう。

「ちょっと、ちょっと!! この先カーブよぉーーー!!」
「バカヤロウ! くだらねぇ事言ってねぇでハンドルを切りやがれ!!」
「ひえええぇぇぇーーっ!!!」

『ガシャァァンッ!!』

 悲鳴同様の咆哮が上がると同時にカーブを曲がらなかった自転車は岩の壁にぶち当たり、二人は吹き飛んでしまった。正確には前輪が宙に浮いていた為に、曲がらなかったのではなく曲がれなかったのだ。

『ふおおっ!? なんとぉ、このペアは何を思ったか壁に向かって突進していったぞぉー? さすがのロケット弾も岩の壁までは壊せなかったぁーーーっ!』

 マイクを握るカミュの手に力が篭る。額に若干の青筋が見えるのは状況を細かく熱く中継する為だろう。隣のティアラが俯いて肩を揺らしているが、その事については触れられなかった。

「あいっ……たたた。何考えてんのよ! 曲がれる訳ないじゃない!!」
「う……五月蝿ぇ! テメェの体重が軽すぎるんえでぇ!!」

『あの二人は相変わらず進歩が見えないねぇ』
『さてさて? レースは更にヒートしてますよぉ! ここでトップは源さんペア、そして続くは八百屋の主人夫妻、さらに続くは今回の優勝第二候補のデイジィ・ララペアですねー』
『だが、ララが漕ぎ手なんて意外だね。何か策でもあるってのかい?』
『さぁ? 本人曰く、突き進むとは言っていましたけども。如何なものでしょうかねぇ』
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