掌編小説部屋

□Episode.01 デイジィのお料理教室!?
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 一人の剣士は果敢にも困難を乗り越えようと策を練った。その策とは自身より能力を持つ者にその知恵を分けて貰う事。そうすれば失態をせず、更には自身のスキルアップにも繋がる事だと確信を持っていた。
 刃物を扱うに関しては誰にも負けない腕を持ち、相手が人間ならば悲鳴は愚か、痛覚すら感じさせずに首を斬り落とす事も可能であろう誇り高き剣豪の称号を持つ、女剣士デイジィ。彼女はジョルジュの妹であるララに懇願したのだ。

「ララ、とびきりのカレーの作り方を教えてくれないか? すごいのを作って奴らの鼻をへし折ってやりたいんだ!」
「私でよかったら喜んで! すっごい美味しいカレーを伝授しちゃいます♪」
「よぉし、そうと決まれば早速やるぜ! ララ、覚悟はいいな?」

 実際には懇願とは程遠いかもしれないデイジィの願いを快く引き受けてくれたララ。対してデイジィは豪快に拳を当てて気合いを入れていた。
 こういう事態になったのも過去の経験があったからだ。その時はララが不在でご飯を作る者がいなく、気分が乗っていた彼女が作る事になったのだが……結果は惨敗であった。
 否、惨敗と言うよりも大失敗に等しいであろう結果となってしまったのだ。同じ失敗はしたくない。孤高なる魂が咆哮を上げ、高い志を掲げて挑戦するデイジィの心の叫びでもあるのだ。
 調味料等の配置を全て把握しているララは、扱い慣れたキッチンに必要な食材をゴロリと並べると、エプロンの紐をギュッと締めた。

「さぁ、デイジィさん! 先ずは野菜の皮を剥いて一口大に切りましょう」
「任せろ、斬るのは本職だからな!」
「デイジィさん……斬るのではなく切るんです」

 ララの言葉に気付かない彼女は人参を手の上で遊ばせると、天井近くまで高く放り上げる。すると幾千の閃光が走り、人参は床に落ちたと同時にバラリと細かい輪切りと化した。流石はデイジィと言えよう。この剣技は誰にも真似出来ない芸当だ。

「見ろ! 一般人で瞬時にこれだけ細かく斬る事はまず出来ないだろう♪」
「デイジィさん、これは勝負ではなく料理なので、ここまで細かくしなくてもいいです。それに……床に落ちたら食べられないです」

 あまりにも細かく刻まれた人参を見て肩を落としたララである。料理という工程を行う前に、先ずは剣技から離さなければ……とも同時に思った。

「じゃあ、次はタマネギを切りましょう! これは細かく切る必要はないので、ゆっくりでいいですから等間隔に切ってください」
「なぁ、ララ?」
「うん? 何ですか」
「もっとこう……サクッと出来る料理をしたいんだ」
「…………。」

 とびきりのカレーを作りたいから教えてくれと懇願してきた張本人なのだが、その願いすら既にデイジィの意識からは遠退いている……のかもしれない。
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