長編小説部屋
□Episode.06
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「ちょっと、モンスターもいないのにどうしたってのよ」
カミュの問いに少し口角を上げて答えるのみで、彼女の集中力はこの先を歩む道標のみに注がれていた。
充分に高まり圧縮された気弾は、大きな岩山すら簡単に破壊出来る程のポテンシャルを秘めている。身体を捻りながら身構え、何もない平地に向かって打ち放った。
終始見ていたが、意味不明と思われる行動に大きな疑問を浮かべる。モンスターがいない方向に何故そのような行動を取ったのかだ。
放たれた気弾は轟音を発しながら何もない平地を高速で飛び続け、ジョルジュは弾道を操作する事で急上昇させた後に急降下させた。
「よし!」
気弾の尾鰭を腕から切り離して、こちらに向かって笑顔で歩んでくる。彼女の意図が全く掴めずに疑問が更に膨らんでいく。
「さぁ! 時間が無いから手短に話すわね。質疑応答は受けかねないわよ♪」
得意気に笑んだ表情は何か大きな事をしてくれる自信に溢れている。皆は相変わらず頭上に大きな疑問を浮かべていたが、ソフィアだけは微妙に口元が引き攣っていた。長年の付き合いだからこそ嫌な雰囲気が漂ってきたのだろうか。
そんな心境を察してか否かは不明だが、意気揚々と説明を始めた。
「水に足を着けるとすぐに沈むよね? でも少しは抵抗があるから右足が沈む前に左足を水に着ける事が出来ると思うわ! で、今度は左足が沈む前に右足を水に着ける! これを繰り返していけば水の上を歩く事が出来るってスンポーよ!」
「あの……冗談よね?」
「こんな時に冗談なんて言う訳ないでしょ? あたしは本気だよ」
遠く離れたジョルジュの後方から台風が近づいてくるような風を弾く音が聞こえてきた。その音は次第に大きくなり、ゆっくりと音から騒音、騒音から轟音へと変換されていく。
「この音……まさかさっきの気弾をこっちに向かわせているんじゃないだろうな!?」
「そのまさかだよ? あの気弾に当たらないように走れば水に沈む事はないと思うから」
微動だにしないその自信の下で、平然と話すジョルジュは本気だ。輝くその目が全く冗談ではない事を静かに語っている。少しずつ後退りをする全員の顔色に青みが差した。
後方からは大きな破壊力と轟音を纏った特大の気弾が荒れ狂う高波のように押し寄せてきた。もはや逃げる道はない。
「さぁ、来たわよぉ! れっつごぉーー!!」
「きゃああああぁぁぁーーーーーーッ!!!!」
皆は一斉に走り出した。額や頭上から冷や汗をほとばらせながら見事に水上を駆け抜け、あまりのスピード故に皆の姿が幾重にも重なって見えるとても珍しい光景だ。