長編小説部屋

□Episode.03
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 普通の宿屋なら五十キュラが平均で、高くても百キュラならかなり豪華な宿屋だ。この程度の宿屋であまりの法外な値段に開いた口が塞がらなかった。
 当然そんな宿屋に泊まるはずもなく、村を出ようと歩き出すもしつこくしがみついてくる長老に鬱陶しさを感じて強引に頭を引き剥がした。だが負けずと長老もジョルジュの頭を握ってこれに応戦をする。

「こんなバカ高い宿に泊まるはずないでしょぉ!?」
「あんたらが泊まらにゃこの村は朽ちてしまうんじゃ!」

 対峙し合う奇妙な光景に皆の目は点になっているが、ミカエルが惨事を鎮める為に二人の間に割り込んでお互いの距離を確保させる。このままでは埒が明かないからだ。

「一体この村はどうしたのですか? ミレイは温泉で有名な筈ですが」
「おお、よくぞ聞いてくださった! 実はかくかくしかじか……」

 待ってましたと言わんばかりに話し始めた。数年前からモンスターの襲撃で村は随分と廃れてしまった事等、更には聞いてもいない長老のプロフィールまで強引に聞かされた。
 やはりこの村にも恐慌の影響があった事にミカエルは無念に思う。何とか力になりたいとジョルジュに振り返ると、提言を理解しているかのように肩を竦めている。モンスターが巣窟している場所を聞くと、村に流れる川の上流にあるとの事だ。

「お任せください。私達がモンスターを排除してきます! そうすればこの村も再び活気が戻りますものね!」

 彼女の言葉に村人達から歓声が上がる。村に流れる川の上流を見据えると、確かに邪心を帯びた気配を感じ取れる。距離があまり離れていない為に襲来に合いやすいという事で、一刻を争う事態にパーティは立ち上がる。

「しょうがないわね! モンスターを倒さなきゃ先に進めないって感じだからね!」

 軽く手を翳して村を後にし、川の流れに沿って歩いていく。後方を見遣れば中心部にいた時は気付かなかったが、家々の外壁は破壊や爪の傷跡等が痛々しく見えた。この村も日々、恐怖に怯えながら暮らしていたのだと思うと胸が痛くなる。

「まったく……お前らのお人好しには感心するぜ」

 頭の後ろで腕を組みながら歩くデイジィが溜め息混じりに言葉を発するが、文句も言わず共に歩くのは自身も共感したから。
 彼女の住んでいた町もまさに同じ状況下で、その事を思うと力を貸さざるを得ない心境になる。結局は似た者同士かもと自身の気持ちに反発するように鼻を鳴らして歩いていた彼女の眉が不意に上がった。

「きゃああぁぁーーっ!!」

 突如、前方より悲鳴が耳に届き、少しばかり舌足らずな声から子供だろうと予測できる。切迫した悲鳴に皆は顔を見合す事もなく一斉に駆け出した。
 前方に映るのは予想した通りの小さな少女が川を背にして震えている。視線を右方に移すと三匹のジャッカルが少女を捉え、涎を垂れながら距離を縮めていた。

「大変です! 急がなければ間に合いません!!」
「チッ、距離が離れ過ぎてるわ!」
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