短編小説部屋

□Episode.04
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 下界ではそれまで続いていた森がいつの間にか切れ、環境が次第に険しさを増していく。森から砂浜が見え始めたと思いきや、現在飛んでいる場所の下界では岩肌が荒々しく姿を見せていた。もしも歩いて此処まで到達するには相当な時間と大幅な体力を消耗しているだろう。女王が芽生えさせてくれた翼に感謝したい。
 それまで何事も無く無事に飛翔を続けていたが、途端にデイジィの眼が鋭くなる。異変を誰よりも先に察知し、ゆっくりと手を後方に翳した。

「おい、もしかしてあの洞窟じゃないのか?」

 彼女が指を差した先には崖の中腹にぽっかりと開いた洞窟があり、如何にもそこに居ると思わせる場所だ。だがここまで分かりやすいと返って不安が過ぎる。
 元の世界でもキュレソール近辺には大蛇が存在しているが、辺境の地に隠れる事なく平地にある地下の大穴に堂々と構えていた。対峙はしたものの、神獣クラスの戦闘力にあまりの差を感じてジョルジュは逃げる道しか選べなかった。本当に強いモンスターならば誰が来ようと一蹴出来る戦闘力を保持し、棲み処にする場所すら選ばない。この魔獣もそれと同意なのだろうか。
 カミュは地図を開いて現在地を確認し、地図と洞窟を交互に見遣ると眉を顰めながらゆっくりと顔を上げた。

「どうやら間違い無さそうね。場所も地図と一致してるし、中から妙な邪気も感じるわ」
「やはりそうか。こうなったら行くしかないな」

 どんな相手かも未知数の領域なので慎重に進まなければならない。一番心配なのはこれまで共に行動していたジョルジュだが、この緊張した空気は充分理解しているようである。眼下に映る入り口を見る眼には好奇心と警戒心を兼ね備えていた。
 入り口に降り立つと更に緊張が走る。中を探ろうと覗き込んでみるも、光が全く入らないので真っ暗闇である。ある程度想定はしていたものの、やはり光源が無いと行動は制限されてしまうだけでなく危険も必然的に増していく。無論瞬時の判断力が必須となってくるので、これまでの勘と経験を最大限に引き出さなければならない。
 皆は互いの顔を見合わせ、気弾を松明代わりにして奥へと足を進める。暗い洞窟内に漂う異様な気配だが、妙な事にそんな緊張感が三人の気分を高揚させていた。
 ほんの数歩進んだだけですぐに大きく広がる空間へと繋がるも、途端に邪気が濃くなった事を逸早く察知したジョルジュの表情が瞬時に険しくなる。先を歩いていた彼女の足が止まり、二人は互いに背を向けながら警戒を強めた。
 重々しく感じる空気と、どこからか見据えられている重圧感。何処かに魔獣が潜んでいるようだが、今の所は何の動きもない。照らされた空洞からは地中から響いてくる低い音だけが聞こえていた。
 頬を伝わる緊張を含んだ汗が地面に落ちた時、後方から風を切るような短い音が聞こえたと同時に暗闇から何かが迫ってきた。

「……っ、カミュ!!」

 逸早く異変を感じたジョルジュがカミュを突き飛ばすと得体の知れない何かが身体に巻き付き、悲鳴を上げるも瞬く間に遠ざかっていく声と気配。この状況から魔獣の襲来以外は考えられなかった。
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