短編小説部屋

□Episode.03
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 桃色に広がる空の下には光の反射で鮮明に輝くお城。城門を潜り抜けると、他の妖精達の姿が見えた。容姿はスプラと同じで尖った耳と緑色の髪が特徴である。顔は人間と同じくそれぞれ違うので、誰が誰なのかを間違える事は無さそうだ。
 初めて見る異種族に珍しさから好奇な目で見ていると、あちらからも物珍しい視線を受けた。人間がこの地に足を踏み入れる事は非常に珍しいのだろう。スプラはそれらをあまり気にせず女王の居る場所へと向かう。
 城内に入ると限りなく透明に近い青色の階段が上へと続き、踏めば小さな音色が響き渡る幻想的な階段である。興味を示しているのはジョルジュだけではなかった。
 階上には大きな扉があり、青く光る扉に手を翳すと音も無く静か開いた。

「セルシ女王、人間の戦士達を連れてきました」

 膝を付いて深く一礼したスプラの前には深緑色の慈愛を宿した目を持つ女王がいた。親友のミカエルも慈愛に満ち溢れた優しい瞳をしているが、それとは全く質が違う思慮の深い眼だ。見ているだけで心を奪われると言えば分かり良いだろうか。

「ご苦労様。あとは私が……」

 再び一礼し、振り返って視線を送るとそのまま部屋の外へと出て行ってしまった。カミュが後を追おうとした時、女王の言葉が意識をこちらへと向けさせる。

「スプラからお話は聞いていると思いますが、妖精族は希望の花を咲かせるのが役目です。もしその役目を果たせなければ我々は存在意義を無くし、自ら光へと姿を変えるでしょう。そうならない為にもどうか貴女方のお力をお借りしたいのです」

 女王が静かに告げると、ジョルジュは腕を組みながら凛とした表情で見据えた。二人の間で少しの応酬があったのは、花と妖精達の共有関係、希望の花の真意を問うた事だった。
 希望の花とは人々の願いや岐路に立たされた時の道標を示す未来への光の事。それらは役目を終える毎に枯れて種を残すのだが、その種が奪われて花が咲かなければ未来への光は注がれずに人は悪しき道へと歩むらしい。
 また光が溢れて心が歓喜に満たされた時、その輝きが妖精達に活力を与えるそうだ。花が咲かずに光が滞れば妖精達は使命を真っ当出来ずに消えてしまう運命との事。
 ようやく何故スプラがそこまで協力を必要としていたのかを理解出来た。この大地に再び花が咲かなければ、妖精達だけでなく自身にも最善の道標を見出す事は出来ない。そこまで聞いて動かないはずはなく、ジョルジュは拳を強く握る。

「勿論よ! あたし達が必ず種を奪い返してみせるわ!」
「御協力頂き感謝します。もしかしたら此処に咲いていた最後の花は貴女達を見つけてくれたのかもしれません」

 二人もジョルジュと同意のようで、少し照れながらそれぞれ顔を合わせて微笑んだ。女王が胸元から金色に光る紙を宙に浮かすと、空を舞わせて三人の下へと泳がせる。
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