短編小説部屋

□Episode.02
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 歩く旅には慣れている。だがジョルジュが示した方向に進んだはいいものの、この世界に降り立った平地からいつの間に密林地帯へと入ってしまっていた。
 大きな木の根を跨ぎ、垂れ下がる大樹の弦を鬱陶しそうに払いながら歩いているこの場所は、隙間なく苔が生い茂っているので足が簡単に滑ってしまう。予想もしなかった現状に、歩む度に『確実に方向を間違えてしまった』との懸念が二人の脳裏を通り過ぎるのも否めない。

「おい、本当にこの道で合っているのか? まるでジャングルじゃないか!」
「あたしだって初めて来たんだから知らないわよぉ! それにこれだけの植物があるんだから、希望の種っての見つかるかも知れないでしょ?」

 確かにその可能性はあるものの、三人はマジカル・スリップによってその種の事を初めて知った。仮に見つけられたとしても、それまで知らなかった存在を目の前にして果たしてそれが希望の種であると断定出来るのか。目の前に広がる木々や雑草は勿論初めて見るものばかりで、これでは確定が掴めないとカミュは首を捻る。

「でもさ、それって本当に植物の種なのかしら。もしかすると別な物って見解も必要なんじゃない?」
「確かに……な。此処はあたし達がいた世界とは違うから、そういう認識も必要なのかもしれないぜ。だったら物が分からないんじゃ闇雲に探しても仕方ないんじゃないか?」

 必然的に湧き上がる疑問に二人は足を止め、顔を見合わせる。見た事も無い物をどうやって探せばよいのか。物を探すに当たって必要な物は情報であるが、今は何一つ揃っていないのが現状である。
 埒が明かない状況の中、前方でジョルジュが二人を呼び止めた。

「ねぇーっ、この花からすんごい甘い匂いがするよぉー!」

 彼女が見ているのは大きく花が開いた植物だ。直径にして身体三つ分程の卵型の花が対照的に開き、その中心は真っ赤な色で独特な甘い匂いを発している。ジョルジュは更に近づいて突っついてみた。
 するとどうだろうか、触れられた事に反応するかのように小さく花びらを揺らしているではないか。この植物にはまるで意思があるかのようで、更に興味を持ち始める。触れては揺れ、触れては揺れを繰り返して遊んでいると、離れて見ていたデイジィが異変を感じた。

「おいっ、そいつから離れるんだ!!」

 警告を発した瞬間だった。なんとその植物はいきなり花を閉じてジョルジュに噛み付いたのだ。下半身を残し、喰われた上半身は花の中で大きくもがいている。
 どうやらこの植物は食虫植物らしきものだが、大きさが常識範囲外である。花に触られた事により獲物が来たと判断したのだろう。そのまま全身を飲み込もうと、全体を左右に振りながら少しずつ確実に飲み込んでいく。
 喰われたジョルジュを見て、急いで駆け寄る二人。こんな所で何かあっては申し訳ないだけでなく、無事に元の世界に戻れないかもしれない。
 剣を抜いたデイジィが素早く植物の茎を切り落とす。続いてカミュが落ちた植物の花と花の間に両手を突っ込み、強引に開かせて飲み込まれた身体を引きずり出した。
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