短編小説部屋

□Episode.01
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「あ〜ぁ……おい、暇だなぁ」

 柔らかな日差しが差し込み、緩やかな風が流れている。此処は平和なルドラの城下町で、先程の言葉はいつも騒がしい一件の家の中から呟かれたデイジィの一言だ。
 リビングにはジョルジュと二人だけ。主人であるザウバーは何処かへ消え、妹のララは隣に住んでいるソフィアと買い物に行っている。どうやら珍しい物が遠く離れたキュレソールから送られてきたらしい。買い物好きなソフィアと晩御飯の買い物のついでにと出掛けたのだ。

「ふぇぇ、暇なのは嫌なのよねぇ……」

 椅子に座り、上半身を机に任せながらうな垂れているジョルジュ。ソファーにもたれ、腕を頭の後ろで組みながら大きな欠伸をしているデイジィ。二人はこの流れる時間を思い切り持て余していた。
 昨夜までの一件は何処へやら。衰弱していたジョルジュは無事にティアラが営む診療所から退院し、ララの手料理を食べて一晩眠ると次の日には完全に回復していた。
 素晴らしい回復力であるが、父から告げられたのは思ってもいなかった外出禁止令。病み上がりで何かあってからでは困るとの配慮だが、当本人が不在というのはどうしたものかと首を捻る所。
 だが命令は絶対的なものがあり、その禁を破れば目から星が飛び出す程の拳骨が待っているのは重々承知である。その所為でジョルジュはこの退屈な時間に身を委ねるしかなかった。
 外出せずに家の中で出来る事は限度がある。それ以前に、家の中で大人しくしている事すら今まで皆無に等しかった。何よりその行動力こそがそれまでの彼女の全てなのだから。

「あ、そうだ!」

 何かを思い出したかのように突然椅子を蹴飛ばし、二階へと駆け上がって行く。それを見ていたデイジィは目線で彼女の後を追うのみ。突発的な行動はいつもの事で、すぐに降りてくるだろうと湧いて来た大きな欠伸を再び噛み殺した。
 一方ジョルジュといえばただ二階に上がった訳ではなく、相応に理由があった。思い出したのは、先日見た夢の世界でレン女王に不思議な本を貰った事。自分が告げた願いを叶えてくれるという物だが、一体どんな事が記載してあるのだろうか。胸が躍るような事を失念していた事に、無駄な時間を費やした事を後悔さえする。
 家の呼び鈴が鳴り、デイジィは二階に声をかけるが何の返答もない。聞こえていないのか、それとも何か探し物をしているのか。何れにせよ誰かが出なければならないが、それに該当するのは現在彼女しかいない。気だるい身体を起こして玄関へと向かうが、ふと察した気配に少しだけ気分が高揚した。

「カミュ……か。これでようやく暇じゃ無くなったぜ♪」

 接近してきた者を悟る感知能力は伊達ではなく、しかもそれが良く知る仲間であるならば間違える事は無い。戸を開けると満面な笑顔が届けられ、しかもその手には小さな手土産が持たれていた。

「アロ〜ハ〜♪ 暇だから遊びに来ちゃったけど……ジョルジュは大丈夫?」
 昨日の今日であり、心配に思って様子を見に来てくれたのだろう。不安が入り、少しだけ眉が下がっている彼女にいつもと何ら変わりない事を告げると、ほっと胸を撫で下ろしていた。
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