短編小説部屋

□Episode.04
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 渦を巻く炎が全ての記憶を焼き焦がそうとしていた時、突風ともいえる風が突然吹き荒れた。炎の双竜は風に煽られ、轟音を残しながら消滅していく。風が静まると、その場には髪と服を少しだけ焦がしたジョルジュが床に横たわっていた。
 ヒール特有の甲高い音が響き、気を失いかけた彼女が向かってくる足音に薄っすらと目を開ける。

「申し訳ありません……これは全て私の責任です。どうかお許しを」
「……だ……れ……?」

 触れられたその手は暖かく柔らかい。誰のものかは分からないが、ジョルジュは生き別れた母の手を僅かに残る記憶から少しだけ思い出した。
 淡い光が身体中を包むと、痛みが和らいで傷が塞がれていく。流れた鮮血の後は残っているものの、今は完全に痛みが消え失せた。驚きに顔を上げると、その人はゆっくりと微笑む。何と優しく暖かい微笑みだろう。幾時だがその顔に見惚れていた。

「あの……」
「少しだけ待ってください。あの方も治癒を施しますので……」

 ジョルジュの問いを遮り、ザウバーの下へと向かう。業火により見るに耐えない姿になっていたが、先程と同じ光が輝いた後、なんと彼も上半身を起こしたのだ。服は焼けていたが、戦闘前と同じで傷一つ無い身体に戻っていた。

「む……ぅ、何が起きたんでぇ……」
「申し訳ありません。全ては私の管理能力不足が元凶です。私の名はレン・ルラウド=A・ジュエリアス。そしてあのギドは……」
「ギドッ!!」

 思い出したようにジョルジュが立ち上がり、素早く身構える。まだ先程の戦闘は終わっていない。だが先の圧倒的な魔法攻撃には太刀打ち出来ないだろう。
 だがギドは先程いた場所から動いておらず、様子も少しおかしい。こちらを睨んでいるが、その視線はジョルジュ達に向けられていなかった。レンは静かに立ち上がり、歩みを進める。

「ギド、私が不在の間に何をしたのか……説明は出来ますか」
「む……ぅ。俺はただ……姫を取り戻そうと」

 レンは睨みながら静かに溜め息を吐く。この二人の関係はどういうものなのか。分かる事は二人の上下関係。彼の動揺している態度から見て、彼女の方が圧倒的に上のようだ。それはまるで主従関係のよう。ギドは対峙していた時とは打って変わる程に萎縮している。

「当分の間は人間の姿になる事は許しません。……いいですね?」
「に……人間の姿!?」

 彼女の言葉は静かだが、彼にとって恐ろしい程の威圧が掛かっているのだろう。一瞬だけ顔を顰めるが、指示には逆らえないようだ。ギドは舌打ちをしながら右手を天井に翳すと紫色の煙が上がり、そして小さなパンサーの姿に変わったのだ。これがギドの本当の姿である。
 元の姿になったのを確認すると、先程の戦闘で壊れた室内を見回して再び深い溜め息を吐いた。右手に魔力が込め、天井に向けて翳すと眩しい光が辺りを包んだ。
 幾時の時間が過ぎて二人はゆっくりと目を開けると、室内は元の状態に戻っている。激しい戦闘力のぶつかり合いで壊れた天井や、壁や床なども全て元通りだ。
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