短編小説部屋

□Episode.03
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 目の前にはルドラよりも大きな城が聳え立っている。大きな龍の石像が双方に並び、この城自体が侵入者を拒んでいるようだ。
 不思議に思うのはあまりにも静か過ぎる事。風の流れる音だけが聞こえ、城内からは僅かな雑音すら聞こえてこない。否、人の気配すら感じないのだ。良く知るルドラ城ならば、城に住まう者や兵士達の声が絶えず聞こえ、静かな時と言えば皆が寝静まった丑三つ時だ。
 それと別に、疑問に感じるのはこの城の存在である。人が触れたり、そこで生活をしていれば物にも生気が宿るものだが、この城にはそれらが一切感じず、無に等しい淡い存在でしか感じられない。
 色々と疑問を問い掛けたいが、今はその余地が全く無さそうな二人が荒い息を吐き出しながら地に横たわっていた。

「ゼーッ、ゼーッ、やっと……着いた……わね」
「テメェとは……二度と……動きたくねぇ……」

 この場所に到着するまで様々な事があった。下界の集落から初めの一歩を踏み出したはいいが、早速訪れた困難は大きな湖。先ずはこの湖を越えなければならないが、何の準備もない二人は泳いで渡るしかなかった。
 それを越えたと思いきや今度は高い崖に阻まれ、それを自力で登らなければならない。だが水を吸収した服は予想以上に重く、登り切った頃には大幅な体力を削られてしまった。
 その後は森の中でジョルジュが指揮を取るも、迷子になって散々彷徨った挙句に到着したという訳だ。
 息が上がって会話も成り立たない二人は暫くの間、強制的に休憩を取らざるを得なかった。


 ようやく体力を回復させ、城を目の前にして腕を組みながら立つ。この場所に到着した時から感じていた疑問だが、今はあえて触れないでいた。もし口にしても明解な答えが出てこないばかりか、それよりも城内に突入して無事に帰ってこられるかの方が心配だからだ。
 余計な詮索はせず、最優先に何を取るべきか。それによって策は異なり、結果もそれに伴って変わってくるのだ。

「どうやって進むか……作戦は決まった?」
「城内の様子も分からねぇんじゃ作戦もクソもあったモンじゃねぇ……が、強いて言うなら特攻あるのみでぇ。敵がいたらブッ潰す!」

 ニヤリと得意気な笑みを向けるザウバー。彼の性格ならそれ以外に取る道は無く、またその策に同意した彼女も然りだ。攻撃は最大の防御とも言い、彼の性格が反映しているジョルジュもそれ以外の策は考えていなかった。

「扉を開けたら余計な詮索はせずに二階に駆け上がれ。あの影は二階の窓から入って行きやがった。となれば術者もしくは本人がそこにいるはずでぇ」

 二人は扉の前まで歩みを進めた。大きな扉の向こう側はどういった構造になっているのか。開けたすぐに状況を判断し、遅れをとらないよう瞬時に動かなければならない。緊張が二人の背中を駆け抜ける。
 低い音を響かせながら扉が開かれ、緊張の一歩を踏み入れた。城内からは何の気配も感じない事が余計に不安を煽らせる。素早く辺りを一瞥すると、広い空間の真ん中に二階へ上がる階段があった。
 入り口から階段まで真っ赤な絨毯が敷かれており、まるで招待しているかのようだ。二人は顔を見合す事もなく一気に階段まで駆けると、ジョルジュが後方に妙な感覚を感じたらしい。走りながら振り返ると、なんと夢の中でジョルジュを追っていたあの影が出入り口にいたのだ。
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