掌編小説部屋

□Episode.05 かっとび!ルドラマウンテン
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『パン! パパンッ!』

 ルドラの城下町に軽快な開始直前の花火が打ち上がる。ミネア女王が統括するこの平和な町で、ある行事が行われようとしていた。
 それは城が全面的にスポンサーになり、城下町に住まう者の活気を引き上げる為に行われるモトクロスサイクリングレースなのだ。二人乗り用の自転車にペアを組んでルドラの町を出て、少し離れた場所に聳え立つルドラマウンテンをその自転車で乗り越えるというイベントである。
 少し変わった自転車で、二人乗り用の自転車の前に座る前乗者はハンドルとブレーキを操作し、後ろに乗る後乗車はペダルを漕ぐという二人の息が合わないとまともに乗る事は不可能であるそんな自転車競技であった。
 城がスポンサーという事もあり、優勝賞金は二十万キュラ。この金額に真っ先に乗り出したのは、当然の様に出てきたジョルジュとデイジィの二人。その二人の脳内はプリンとタルトの邪念によって汚染されていた。

「よぉーし、始まった大イベント! プリン食べ放題に向けて絶対優勝するわよ!」
「すごい賞金だよね! それだけあれば今晩はすっごいごちそうを作っちゃうよぉ♪」
「二十万もありゃタルトが百個……いや二百個は食べられるな!」
「フンッ、暇潰しに出てやらん訳でもねぇ。……二十万か、悪くねぇぜ」

 晴天に恵まれた城下町に、それぞれの思いを胸にスタート位置に立つのは各々の選手達。高鳴る鼓動がいい緊張感を張り巡らせていた。

『さぁ! 記念すべき第一回目のレースが始まりますよぉ! 司会は私、カミュ=アルバート・マクドゥガルでぇーす♪ そして副司会者はぁー?』
『……さっさと始めるよ』
『なんとなんとぉ? ティアラ=F・リルファさんとはこれまた驚きですよねぇ♪ この司会場も盛り上がってきましたが、さて! 今回の優勝候補は言わずと知れたジョルジュ・ザウバーペアですが、それすら凌駕してしまうかもしれないデイジィ・ララペアもとても見所ですよね!』
『何でこの組み合わせなんだい? あたしはてっきりジョルジュとデイジィが組むと思ったんだけどね』
『二組で出れば優勝と副賞が当たるとの事で、ララちゃんが無理矢理参加させられたとの事ですが』
『そんな事だろうと思ったよ……』
『それではそろそろ時間となりましたので、スタートの合図でぇーす!』

 司会の二人が座る正面には大きなモニターがあり、それぞれの選手が映し出されている。発明好きのカミュが飛行式自動追尾機能付きの超小型カメラを作り、離れた場所でも常に状況を把握出来る事を可能にした。この機械は通称『モスキート』。いつかジョルジュに使おうと思っていたのが、今回は別の形で日の目を見る事が出来たようだ。
 大きく旗を振り下ろしたスターターの合図と共に、各車両が一斉にスタートを切った。城が立ち上げた企画なので盛り上がらないはずがない。歓喜や声援が地を揺らし、ペダルの漕ぐ音や選手達の威勢の良い声が響く中、何故か一組だけが動こうとしていなかった。

『おおっと、ジョルジュ・ザウバーペアが今だスタートしていませんよ! これは余裕の表れなのか……いや、後ろのジョルジュ選手が降りて、何やら言い争っています……ね?』
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