掌編小説部屋

□Episode.02 ジョルジュの目覚まし大作戦!!
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 柔らかい太陽の光が人々の目覚めを暖かく誘い、小鳥達の囀りが軽やかに響けば緩やかに流れた風が葉と葉の隙間を通り抜けながら自然の香りを纏う。既に目覚めた花達は光を求め、傾げていた首を空に向けた。
 朝靄が鮮明になっていく頃、此処ザウバー家の前では日課の鍛錬に励むデイジィの姿と、それに付き合わされているティアラの姿があった。
 剣気と剣気が弾け、一帯の空間を甲高い音と共に震わせる。荒い息をしながら睨み合う二人の後ろでは、家主のザウバーが壁に寄り掛かりながら煙草の煙を吐き出した。
 彼は今こそ鍛冶屋を営んでいるものの、元は剣聖の名を保持していた世界で唯一の剣士であった。そんな彼の過去は誰も知る由が無い。

「よし、今朝はここまでだな!」
「早朝から叩き起こされて何事かと思いきや、お前の鍛錬に付き合わされるなんてね」
「心配ない。背に腹は代えられないと言うじゃないか」
「何を心配するんだか……。付き合わされるあたしの身も考えなよ」

 肩を竦めながら溜め息を吐き、そっぽを向くように踵を返すも、ティアラの口角が少しだけだが上がっている。彼女に対していつものように毒づいているが、心情はまんざらでもないらしい。気持ちと言葉は裏腹のようだ。

「……よぉ」

 ザウバーに軽く挨拶をし、同じく壁に寄り掛かる。二人は知らない仲ではなく、共に口数は少ない方だ。デイジィを見遣ればまだ身体を動かしたりないようだが、途中で止めたのは彼女なりの気遣いがあっての事か。否、恐らくは気まぐれである要因が大きい。

「相変わらずじゃねぇか」
「まぁね、早起きは三文の得って言うが、あいつに付き合わされるのはどうかと思う」
「フン。その言葉、ジョルのヤツ自ら言わせてやりてぇぜ」

 軽く舌打ちする姿を見て小さく失笑するティアラ。察した事はどうやらご名答のようである。たった一言だが、彼が零した言葉で充分に理解出来た。
 だがここであまり申しては後にジョルジュ自身に影響があるだろう。寝坊をしようがトラブルメーカーだろうが、彼女は彼女らしく今のままがいい。そう思ったので今は何も言わない事にした。

「お父さん、デイジィさん、朝ご飯できたよぉ♪」

 外に響いたのはララの元気な声。朝から多忙に動いているが、その元気さは姉譲りだ。大きく手を振りながら満面な笑みで近づいてくると、父の影に隠れていたティアラが顔を出して手を翳す。

「あ、ティアラさん! おはようございます♪」

 元気な声が彼女にもかけられ、愛想らしい笑顔に自然に口角が上がった。
 気遣いの良いララは持ってきたタオルをデイジィに渡している。見れば住み慣れた彼女と家族のように言葉を交わし、その光景に少し嫉妬を覚える。本来ならばあの場所には自身が立っていたかもしれないのに……。
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