長編小説部屋

□Episode.09
1ページ/11ページ

 皆の体力も回復し、立ち上がる姿は意気に満ち溢れた勇姿。目的の髭も確保し、彼女達が見据える先は橋の向こうにあるレッドアイ大陸。
 だがこちらに来た時に予想もしなかった大きな砂漠があり、モンスターの襲来も合わせて精神的にかなり苦戦を強いられた事。地図で確認すれば海岸沿いに進められるらしく、満場一致で砂漠を避けて城へ向かう事にした。

「あの先に神都があるそうですよ」

 ミカエルが指差した方向には果てしなく広がる海原しか見えないが、遥か先には聖地『神都』がある。海の真ん中にあるので何処の大陸からも歩いて行ける道は無く、海路のみの進行となるが海を渡る方法も考えなければならない。
 海沿いを歩んで行くとよく分かるのが上空の状況。青い海に対し、雨雲よりも黒い霧が薄っすらと漂っている。そんな空を見つめて出てくるのはどんよりとした溜め息であった。
 歩きながら現在地を確認すると、地形と地図が間違っていなければそろそろ砂漠地帯を抜けている頃であろう。この辺りから城の方向に向かっていけば大回りせずに到着出来る。
 進路を変えようとした時、デイジィの目は小さな人影を捉えた。波打ち際にしゃがみ込んでいる人物は何処かの旅人なのだろうか。
 海からもモンスターが出現するのは分かっているはずだ。だが落ち込んでいるかのように、その人物は一人佇んで海を見つめていた。
 寂しげな様子を気に掛かけ、こちらから近付こうと声を掛けたその時だった。その人物はいきなり魔法力を引き上げ、こちらに向かって火炎の魔法を唱えてきたのだ。

「……へ!?」
「な、なんだぁ!?」

 先頭を歩いていた二人の目がニュッと飛び出したと同時に、最後尾を歩いていたティアラが飛び出して向かって来る炎を二本の剣で斬り捌き、そのまま速度を落とさず瞬時に相手の間合いに入り込んで動きの全てを封じた。
 圧倒的に差のある戦歴と臨機応変の対応。喉元に突き付けられた剣先が有無を言わせずに相手を萎縮へと導かせる。

「いきなり攻撃してくるなんていい度胸してるじゃないか。覚悟は出来てるんだろうね」

 少し遅れて到着したパーティ。炎の魔法を放った魔法使いを目前にしたデイジィから意外な言葉が出てきた。

「お前、イルミじゃないのか?」
「デ……デイジィお姉ちゃん!?」

 イルミと呼ばれた女の子は彼女の知っている者であった。此処はレッドアイの領土であり、恐らく住んでいた村も此処から近い場所にあるのだろう。安堵を覚えたのか、突然泣き崩れるイルミに剣を鞘に収めたティアラが介抱しながらゆっくりと事情を聞き始めた。
 彼女はグラーニと呼ばれる村から逃げてきた。数日前に村へ黒い法衣を纏ったモンスターの大群が押し寄せ、村が制圧されてしまった。その時言われた事があり、期日までに村一番の魔力所持者を差し出せとの事。
 村で一番強い魔法力を持つ者はイルミ。モンスターの狙いは彼女に絞られ、村人達に守られながら必死に逃げてきたらしい。何の意図かは分からないが、自我を持つモンスターは魔力所持者を求めていた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ