長編小説部屋

□Episode.08
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 キュレソールの城下町にようやく辿り着く事が出来た。デイジィの言っていた腕のいい医者を一刻も早く探さなくてはならないが、ルドラよりも規模の大きい城下町に軽く舌打ちをする。
 道を歩いていた町民に尋ねると、診療所は城下町の中心部にあるとの事。医師の名はティアラ。口は悪いが腕はしこたま良いと評判らしく、噂通りで安堵を覚えた。
 直ぐさま町の中心部へ向かうと、大きな木のすぐ横にそれらしき建物を見つけた。『ティアラ総合診療所』と立てられた小さな看板の灯りが消えて出入り口の戸が開く。
 診察を終えて戸を閉める頃だったのか、目が合うと無言でこちらを見据えている。透明度の高いブロンドの髪が靡き、鋭い目付きは言葉を詰まらせる程の威圧を感じた。
 白衣を着用している姿から医師である事を示すが、ここまで威圧に満ちた女性は見た事がない。初見で良い印象を得る事など皆無に等しいものがある。

「……何か用かい?」

 その一言だが皆の背筋が凍りついた。腕を組んで見据えられる様は蛇に睨まれた蛙さながらである。皆が萎縮している中、カミュを背負っているデイジィが先陣を切ってくれた。

「頼む、こいつを治してくれ!」

 器用に片方の眉を上げて視線を移すと、石段を降りてきてカミュを診てくれた。じっと見る鋭い目。小さく鼻を鳴らし、出てきた言葉は皆を驚愕に導く言葉だった。

「こいつはもうだめだね。どうしてもと言うなら二十万キュラを請求するよ」
「に……二十万キュラだと!? ふざけるな!!」
「ふざけるも何も特殊な毒だからねぇ、相応の金額だよ。回復も出来ずに苦しみ悶え、放っておけば天に召される。どれを選ぶのはお前達だよ」

 冷淡に言い放つ医師は踵を返して診療所へと入ってしまった。出入り口の戸を開けたままにしておいたのはパーティへの選択権を与えた為。呆然と見ていたが、彼女の腕は確かなものと直感で感じた。
 カミュを見ただけで毒に侵されていると瞬時に判断し、毒の種類も判別している。ミカエル達が毒と判断するまでに要した時間に比べればほんの僅かでしかない。だがあまりにも法外過ぎる金額に何の言葉も発せられなかった。

「二十万キュラなんて……そんな大金持ってる訳ないでしょ!」
「奴め、あたしらが旅人だからって足元を見ていやがるな。どうする……」

 現在の所持金を全て集めても四千キュラあるかどうか。告げられた金額に到底追い付くはずがない。
 後ろを見遣ると、カミュの流した鮮血が点々と続いている。彼女を治したい。早くこの苦しみから解放させてあげたい。何よりもう一度彼女の笑顔が見たい。その想いがジョルジュを動かした。

「いい……あたしが話をする」

 宣言したその眼は輝きを失ってはいなかった。どんな苦境も乗り越えられそうな凛とした神々しい瞳は先の診療所を見据えていた。
 駆け出した後を少し遅れて着いていき、皆が診察室内に入った頃には既に二人が対峙して張り詰めた緊張感が室内を埋めていた。
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