長編小説部屋

□Episode.05
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 目前には聳え立つ山の下部にポッカリと大きな口を開けた洞窟の入り口。少しだけ滑りそうな通路を踏み締めるように中へと入っていくと皆は呆然とする。
 この洞窟は『選択の洞窟』と呼ばれているその意味が至極簡単に理解出来た。ズラリと並ぶ十の入り口。それぞれが何処に繋がっているのかも分からない。

「うーむ、成る程な……。確かに選択の洞窟と言うだけはある」
「皆が一緒に入るには入り口が狭過ぎますし、縦一列は何かあった時に危険ですね」

 ミカエルの言う通りで、途中で強いモンスターが現れてもどうにも手立てが見えない。回避するにも大変な混雑が予想されるだろう。
 考えていたのとは違う現状に頭を捻るジョルジュ。狭い通路を皆で行くか、もしくは多少の危険を踏まえてそれぞれの道を行くかだ。

「こうなったら覚悟を決めるしかないわね。その方が話は手っ取り早いし」
「そうね。出口で皆揃って会いましょ!」

 ジョルジュの肩を叩いて先に歩き出したのはカミュだ。彼女の好奇心も既に立ち上がっている。この先には一体何が待ち構えているのかという好奇な気持ちが溢れているのが目に見えて分かる。一寸先は暗闇の言葉そのままに彼女の姿が闇に溶け込んでいった。

「じゃあ、あたしも行くか!」

 指を鳴らして入り口へと向かったのはデイジィだ。続け様に消えていった仲間にジョルジュは無言で口を開けている。
 仲間と分かれての行動は全く考えてなかった。それは彼女が一番に仲間を大事に思っているから。それぞれが別行動を取るなぞジョルジュにしてみては不本意の極み。この洞窟に来て頭を悩ませたのはそこにあり、彼女の思考は隣にいるミカエルも重々承知だ。

「ジョルジュ、大丈夫ですか?」

 問い掛ける彼女の不安がまさに的中した事が目視で出来る程だ。眉を下げて頬を膨らませる顔は不満で一杯のようで、こうなってしまってはどうにもならずに手を焼いてしまう。

「なに拗ねてんのよ。こうなったら仕方ないじゃない? 行きましょ!」

 いつまでも動こうとしない背中を押して入り口へと催促する。彼女とは一番に長い付き合いがあるので扱いは誰よりも熟知している。

「ちょ……ちょっと!?」
「燻ってちゃ良い結果も出せないわ! こんな時は突き進むのみ……よっ!」

 体重を利用し、肩で強引に入り口へと突き入れた瞬間、彼女の姿は闇に溶け込むのではなく掻き消すように姿が消えた。

「ひえええぇぇぇ……ぇぇ……ぇ……」
「ジョルジュッ!?」

 遠ざかっていく彼女の声。どうやら入り口すぐの落とし穴に落ちてしまったらしい。

「あ……あら?」
「ソフィア……もう少し状況を見てからにしましょう」

 少し頭を垂れたミカエルはささやかに申し立てるも、時既に遅し。遠ざかっていく声は誰にも止める事は出来なかった。

「と、とにかく僕達も行こうよ! 遅れちゃ皆に申し訳ないからね!」
「こうなっては仕方ありません。彼女の無事を願いながら出口で会いましょう!」

 ソフィアは右から三番目の入り口へ、ミカエルはその隣の入り口から入っていった。ジョルジュに関しては何とかして洞窟を脱出出来るだろう……と信じるしかない。
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