長編小説部屋

□Episode.03
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 翌朝、まだ少しばかり靄のかかる冷たく新鮮な空気が身体の中へと吸い込まれて行く。眩しい朝日と同時に皆の身支度も完了した。改めて目的地を確認すると、平野が続く先に小さな印が描かれていた。
 そこはミレイという小さな村で、偶然にも……否、しっかりと記載していた彼女に感心をする。

「さぁ、出発進行よぉ!」

 再び歩き出したのは太陽が目線よりも少し上に昇った頃。この村はデカルロへ向かう直線上にあり、途中休憩をするならば丁度良い位置だ。この距離なら遅くても午前中には村に到着できるはずだ。


 ミレイの村は温泉が有名である。光の五芒星が結界を張り、モンスターが平地を支配していなかった時は、南東の城デカルロへ行く旅人のよい休憩場としてとても栄えていた。
 だが徘徊するモンスターの所為で旅人は減少し、更に源泉が湧き出る所に住処を張った為にお湯が滞ってしまった。最早、ミレイの温泉地とは名ばかりで廃れてしまったのが現状だ。

「おお……このままではミレイが朽ちていくのも時間の問題じゃ」

 村長が空を見上げて慟哭し、続いて村人達も頭を悩ませていた。小さな村ではお城のように守護兵や護衛兵がおらず、モンスターの襲撃に脅える毎日だった。
 実際に襲われた家々は数知れず、数人の若人が世界平和の為に村を飛び出すも、今だ帰って来た者は誰もいない。この村には若い者が非常に少ないのだ。


 皆が村に到着したのはあれから二時間後。己が描いた地図は間違ってなかったと胸を張るジョルジュだが、見えたミレイの村に大きな疑問が浮かんだ。
 見るからに廃村に限りなく近い状態だが、何人もの村人が一点に集まっているのが分かる。不審に思いながらも一歩足を踏み入れると、中心部にいた人々が一気に押し寄せてきた。

「な……なんだぁ!?」

 大きく振るわせた身体に襲い掛かってくるような無数の手と必死な眼光。そこからは『来たお客を絶対逃がさないぞ』との意思がひしひしと伝わってくるようだ。

「よくぞおいでた旅人どの! ささ、どうぞ中へ!」
「あの……あたし達は……」

 ジョルジュの言葉も聞き入れない勢いの長老は背中を押して村の中へと取り込む。周りを囲む人々の目は、久しぶりの来客に蝙蝠の如く目を光らせている。村の一連を強制案内され、身体共々思い切り疲労を感じたジョルジュは宿屋を頼むが……。

「お一人様二千キュラですじゃ」
「はぁーーッ!?」
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