長編小説部屋

□Episode.03
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 瞬速を誇るカミュが舌打ちをするのは彼女でさえも追い付けない距離と判断したから。距離を縮めるも、雄叫びと同時に飛び掛かったジャッカルの方が圧倒的に早い。皆が惨劇を覚悟したその刹那、後方を走っていたジョルジュが仕掛けた。

「バックホぉぉーーームッ!!」

 掛け声と同時に投げられた石がデイジィとカミュの間を通り過ぎ、低く鈍い音を響かせながら一匹のジャッカルに見事命中した。
 側頭部に直撃した事で大きな瘤が膨れ上がり、強制失神を余儀なくされる。突然の攻撃に制止を強いられ、そのお陰で少女に怪我を負わせる事なく合流できた。追い付いたパーティは少女を守るように前に立ちはだかる。

「よかった、何とか間に合ったわ!」
「その掛け声はどうかと思うけどね……」

 仲間がやられた事で更に威嚇と怒りを露にし、目に見えて敵意はこちらに向けられた。
 強靭な足で地面を蹴って怒りに任せて飛び掛るも、三人はジャッカルをあっさりと叩きのめした。ミカエルは恐怖に震えている少女を落ち着かせる為にやさしく包み込むように抱きしめる。
 落ち着いた所で話を聞くと、少女の名は「リサ」。上流にモンスターが住み着き、皆が困っていたのを何とかしようと立ち上がったという。何とも健気であるが、幼い故に戦術を持たない子には無謀としか言いようが無い。
 だがミカエルはその小さな勇気に敬意を表して頭を撫でると、安堵の所為かリサはと眠るように気絶してしまった。

「現状はこんな小さな子供までも巻き込んでいるのですね。……口惜しいです」
 
 少女が持っていたであろう落ちていた果物ナイフを見た瞳には悲しみと怒りが込められた青い炎が宿る。その気持ちはミカエルだけではない。

「ミカエル、その子を連れてミレイに戻って。カミュは護衛を。此処から先はデイジィと二人で行くわ。いいわね?」

 明らかに怒りと言える感情がジョルジュを支配している。二人は静かに頷き、村へと戻ったのを確認すると再び上流へ歩みを進めた。


 暫く歩くと嫌な気配が一層濃くなったのは巣窟が近くなった証拠。二人は警戒を強めながら更に奥へと進んでいくと、大きな木の向こうから叫び声にも似た奇声や雄叫びが聞こえ、モンスターは岩の隙間から湯気を出した源泉らしい場所に群がっている。
 お湯の溜まり場には湯気が上がって視界を遮っているが、ジョルジュは邪魔な湯気を転機にすべく一つの案を提言した。
 それは源泉が出ている箇所に気弾を打ち、続いて溜まり場にも放てば湯気が邪魔をしてこちらの動きが察知出来ないはず。盛り上がった蒸気に乗じて一気に叩く戦法だ。
 これには相手に気付かれないように動き、且つ俊敏に行う事が必須条件となる。先手を打つからこそ転機となる訳で、後手になればこちらの視界が遮られる事になる。

「成る程……バカだバカだと思っていたが思いも寄らない良い作戦だ。それで行こう」

 納得したデイジィは口角を上げながら小さく頷くと、全ての策を熟知したかのように場を離れた。その間、ジョルジュは攻撃場所を吟味する。位置、角度、規模、それぞれがピンポイントで適切な場所ならば相乗効果が得られるが、もう一方からの攻撃も視野に入れなければ結果が半減してしまう。
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