刀剣乱舞 二次創作

□薬へし ドムサブ1(仮)
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「ある一定の信頼関係を築いた者同士で、一方が支配を、一方が従属を求める症状か。それだけなら馴染みの奴ら同士でなんとかしてもらえばいいだろうが、新しい刀が顕現した時が予測不能だな…。」

 よっこいせ、と見た目に合わない言葉を口にしながら、薬研がそのまま俺の隣に座りこむ。紫の双眸には疑念の光を浮かばせている。

「主の推測では、俺たち刀剣男子にドムサブという主従属性が付随したのではないかとのことだ。主のいた世界にはドムという支配極と、サブという従属極、それにノーマルというどちらにも属さない中間があるそうでな。本来はお互いに不特定の相手を模索し対となるものらしい。」

「要は、中途変異した俺たちは今までの信頼関係をもとにして無意識で対を形成しているわけか。」

 知的好奇心に支配されてやや興奮気味に相槌を打つ薬研の喉元の凹凸を盗み見て、気付かれないように生唾を飲み込む。他人事のように話している俺たちとて、決して他人事ではない。どうやら俺が対に選んだのはこの隣にいる男らしく、こうして隣にいるだけで、この男に組み敷かれたいという欲求がふつふつと湧いてくるのだ。薬研はそれを知っている。どこまで気付いているかはわからないが、俺に起きている異変にこの男が気付かないわけがない。そして、気付いているのに素知らぬふりして涼しい顔をしているからこそこの男は悪魔なのだ。溢れてくる欲求から目をそらすように、資料に視線を戻す。

「主の世界では、対を形成するときに支配極は目に見える従属の証を、従属極は支配極を抑止するための言葉を互いに与え合うらしい。支配しつつも抑止され、従属しつつも掌握する、ただの主従よりも複雑な関係のようだ。」

 そこまでは頭で理解しつつも、実際のところがよくわからない。日々強くなる衝動に飲み込まれそうになるのを、仕事でごまかしている現状だ。薬研が隣にいる今、香り立つような誘惑が、俺の思考を焼きそうである。

「まあ、理屈の上でわかるのはそこまでで、そこからは実証が必要ってことだな。」

 嫌な予感がして、再び薬研の方を向く。二つの紫の瞳が、興味深そうに俺を見つめながら、色素の薄い唇がわずかに弧を描いていた。

 まずい、そう思って逃げようと立ち上がった俺に、低い声が「待て」と命じる。途端、魂と体が分離したようになって体の動きが止まる。俺の意志ではない、けれどもそれは俺の体の意志ではあるようだった。

「旦那、こっちを向いてくれ。」

 今度は考えるよりも早くくるりと体が向きを変える。

「…本当に命令通りになるようだな。それに、なるほど、もっと試したくなるってのも納得だ。」

 薬研もまた、俺を支配したいという衝動に駆られているのだろうか。透き通るほど白い頬に、ほんのりとした朱がさす。

「玩具扱いは御免だ。」

「安心しろ、少なくともモルモットよりは丁重に扱うつもりだ。」

 とても良い笑顔で言い切られたが、全く安心できない言葉だ。よりによってこの実験馬鹿を対と認識してしまった自分が哀れすぎる。

「命令に従ったのはあんたの意志か?」

 昂りを持った、けれども標本を見るかのような鋭さを持った眼差しが、俺に刺さる。

「いや、体が勝手に動いた。」

 まるでその眼差しが強制力を持っているかのように、自ずと口から答えが零れだす。

「ほう、どんな些細な命令でも、対にとっては強制力があるわけだ。まあ、前向きに考えれば、理性より早く身体が動くから、戦闘においての連携に活かせるかもしれないな。」

 薬研はおもむろに白衣のポケットから帳簿を取り出して細々と書き込んでいく。確実に実験に没頭しはじめている。首筋を冷や汗が一筋流れる。

「どこまでいけるか試したいが、その前にあれだ、合言葉ってやつを決めないとだな。」

「主によると、抑止の言葉は支配極を正気に戻す力があるものじゃないといけないようだ。」

「…だとすると、まあ、一つか。」

「本能寺、か。あの夜のことは口にするのも忌まわしいものだがな。」
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