刀剣乱舞 二次創作

□薬へし ドムサブ1(仮)
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「だーんな。」

 ガラリという音と共に聞こえる低音ボイスに、仕事をする手を止めてため息を一つつく。声の主は振り返るまでもなくわかる。声に似合わぬ細身の少年ーもとい白衣の悪魔だ。一部の筋肉馬鹿やらのような体つきとはいかないまでも、一般的な成人男性の容姿を持つ俺が、肩ほどの身丈で、しかも箸より重いものは持てませんというような見た目の短刀を悪魔と呼ぶ。それは恐らく滑稽なことこの上ないのだろう。一つ弁明をするならば、元の主、第六天魔王織田信長の愛刀である時点で、この薬研という短刀が、その見た目通りであるという前提が成立しないのだ。現に、籠の中の鳥だなんだとこぼしている人妻感満載の性別不明な刀が、戦場に出ると敵もびっくりな残虐性を露にする。あれはゴリラだ、人妻の姿をしたゴリラ。こいつらに比べたら、普通の姿をして、普通に戦う俺などは、常識人に違いない。

「何の用だ。」

 止めていた手の動きを再開させて、主に提出しなければいけない報告書を進めていく。博多がいれば帳簿の類は遊び半分に手伝ってもらうこともあるが、これは俺の主命故、なるべく独力で達成しなければいけない。

「…やれやれ、燭台切の旦那の言うとおりだったな。なんだ、この紙の山は。」

 眉をひそめながら、紫色の眼は信じられないといったように細められている。

 言いたいことはわかる。今、俺の部屋の机周りには、書類という書類がうず高く積まれている。机の他に何もない部屋において、それは異様な光景だろう。しかし、仕方がないのだ。今は、そう、今は。大阪城への遠征やら新たに顕現した仲間についてやら、それからアレのことやら、報告しなければいけないことが怒涛の如く押し寄せてきている今、通常の五倍の資料がこの部屋を埋め尽くしている。

「燭台切はなんと言っていた。」

「あんたをなんとか休ませろとさ。歌仙からは手入れ部屋行きにする許可までもらったぞ。」

 ずいぶんと大げさに心配されているらしい。確かに普段からあの二人には「休むことも仕事だ」と言われているし、加州をはじめとした古参の連中からは社畜などと呼ばれている。曰く、働きすぎなのだと。だが、本来刀である俺たちにとって睡眠や休息は必要ないものだ。人間の身体に順応して劣化するならば、順応できないように身体を使い続ければいいだけのことだ。主の常日頃のご苦労や戦場にいる奴らのことを考えれば、このような雑務は数にすら入らない。

「全く。終わってから休めば同じことだろう…。」

「そう言ってあんたがここに篭ってからもう三日になるんだがな。」

 呆れ顔で仁王立ちする薬研は、一体どうするつもりなのか。前回は睡眠薬を盛られたはずだが、今こうして姿を現しているということは今回は正面突破のつもりなのだろう。ここでの一騎打ち、は、短刀である薬研の方に利があるし、なにより資料が無事である保障がない。

「何をするつもりかはしらんが、平和的に頼む。」

「大人しく休む選択肢がないのが流石だ。」

 そう言って少し思案してから、薬研は襖を閉める。…実力行使だろうか。そう思っていると、どうやらそのつもりはないらしく、つかつかと俺の背後に歩み寄って、俺の手元を覗きこむ。

「ふむ、新しい性質についての報告書か。ちょうどいい。俺っちも気になっちゃいたんだ。」

 本丸の医学担当としては、今回の俺たちの性質変化に思うところがあるらしい。性質、というのか、体質というのか。主の霊力暴走を起因としている変化が、本丸内で混乱を呼んでいるところだ。仕事量の増加然り、当然戸惑いは俺自身にもあるわけではあるが。

「この間から一部の刀たちの間で見られる主従関係を渇望する症状。そしてまた、仲間からの指示に身体が勝手に反応するという報告があってな。しかし、詳しいところはまだわからん。」

 始まりは、堀川国広が和泉守兼定の遠征中に突如体調を崩したことからだ。頭痛、目眩、吐き気に動悸。それらが和泉守が遠征から帰還するまでの間中ずっと続いていた。人間に起きる病が刀剣男子に現れるようになったのかと思われたが、主が政府に問い合わせたところ、それは主の霊力の波長が乱れたことから生まれた変化だと判明した。
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