短編
□梅田くんと葵ちゃん※
1ページ/5ページ
僕のクラスには"梅田くん"と呼ばれるヒーローがいる。
ヒーローといっても別に、悪者を退治したり時たま信じられない超能力を発揮したりするわけじゃなくて……いや、確かに梅田くんは時たま信じられないような行動力と男前を発揮するけど。
僕が、僕たちがここで言っているヒーローというのは学校の人気者という意味なんだ。
一方、僕は通称"葵ちゃん"………。
女の子っぽいとかペットっぽいとか、身長が低いとかって理由で学校のアイドル(?)みたいなことを言われてますが………。
問題は僕が可愛さに縁遠い男の子ってことと、学校が男子校ってことと………あと、不特定多数の問題があります。
ペットは良いけど、アイドルは似合わないよねー……。なんて、梅田くんと話してたり。
あっ、そうそう。僕と梅田くんは実は幼稚園時代からの幼なじみだったり。
だから、梅田くんだけは僕のことを"葵"って呼んでくれます。
………たまにふざけて葵ちゃんとも呼んでくるけど。
で、なんでこんな自己紹介をしているのかというと。
「………あっ、おい……ッ!?」
言葉で説明出来ないような状態に、僕と梅田くんがなっているからなのです。
……主に僕が。
簡単にいきさつを話すと、梅田くんは今日、いつものように他校の女子から告白を受けていて…。
いつものように、っていうのは本当のことで、毎日といっても良いくらい。
で、まぁ、僕は折り悪くそれを見ちゃって。
………そういうのって本当に気まずいんだよね…。
で、僕も少しどころじゃなく驚いちゃって。
別に、さっきも言ったように梅田くんが告られている現場に遭遇しない方が難しいくらいに梅田くんは頻繁に告られているから、告られている行為自体には驚かないよ?
梅田くんはいつも断ってるし。
……だけど、梅田くんが『他に好きな人がいるから……』って理由で断ってたことには驚いて。
もしかしたら、そんなのは断るための口実にすぎないのかもしれないけど。
梅田くんが誰かを好きなんだって考えたら胸がギュッと痛くなって……。
いつもの約束通り、両親が共働きだからってことで夜遅くまでやっている梅田くんの家での勉強会の途中でそのことを思い出して…。
いてもたってもいられずに梅田くんのネクタイを引き寄せて無理矢理キスをしている………なうです。
「んっ、ぁっ……あっ、葵…待っ……ッ!!」
キスの合間に呼ばれる名前に罪悪感を覚えながら、それでも僕は再び唇を重ねる。
………ごめんね、梅田くん。
ごめんなさい、梅田くん。
許してなんて言わないから。
友達のままでいてなんて言わないから……。
ごめんなさい……。
でも僕、梅田くんのことが好きで………。
「葵っ!!」
「………ッ!!」
力ずくにキスを止められて。
ダンッていう音とともに背中に痛みが走って、それと一緒に梅田くんの声がした。
突き飛ばされたのかな……。
怒ってる、よね……?
恐る恐る目を開けると、見慣れた天井と、目の前にある梅田くんの顔。
………あれ?
「………梅田、くん……?」
「………葵。」
僕を見る梅田くんの整った顔がいつにもなく真面目で。
だけど、腕を掴まれているから逃げることもできなくて。
せめても、と真剣な眼差しから逃げるようにそっぽを向く。
「………ごめんなさい。」
気持ち悪かったよね?
裏切り、だよね……?
「なんで謝んの?」
いつもより低い声で梅田くんはそう訊く。
「だって、僕………。」
「ねぇ、葵………。」
仕方がないから僕の気持ちを白状しようと重々しい口を開いた中途で梅田くんに遮られる。
「そういうことなら、俺にも考えがあるんだよね……。」
「……えっ?ンッ……!?」
梅田くんの言葉の意味が理解できなくて、訊き返そうとした口を梅田くんの唇に塞がれる。
………あれ、これ、どういう……?
「ンッ…ふぁっ……っ……!?」
僕がしたのよりずっと上手いキスをされて……。
頭の中が溶けちゃいそうだな、とか考えてたら梅田くんのあったかい舌が僕の中に入ってくる。
「ンフッ……んぁ………んくっ……はぁっ……。」
優しく、だけどちょっと強引に僕の咥内を貪る舌に、半ば強引に飲まされる二人分の唾液に、思考回路が焼失した頃になってやっと解放される。
泣きそうで泣きそうで、潤んだ目にうつる梅田くんはいつもとちょっと違うように見えて………。
酸素が足りなくて閉じることのできない口から飲みきれなかった唾液が伝ってく感覚に背中がこそばゆくなる。
「うめだ…くん……ひぅっ。」
いつの間にかボタンを外されていたワイシャツの中に手を差し込まれて、冷たい梅田くんの手に脇腹から胸にかけてをスッと撫でられて思わず変な声が出た。