長編

□プロローグ。
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俺があいつに出会ったのはいつのことだったか。

正直なところ、覚えていない。


いつの間にかあいつが俺の隣にいて、

否。

俺があいつの隣にいた。


俺の居場所はそこだけで、

それでもそこが心地好くて。

その他には何も望まないと、本気で思うことが出来た。



腹立たしい世界でただ一人、あいつだけが俺の味方。

味方で、親友。


それだけじゃしっくりとこないのは俺だけだろうか。


隣にいるのに、もっと近づきたくて。


手を伸ばせば届くのに、その勇気がない。


「おーい、柳。」

振り向けば、すぐ後ろに弁当を持ったあいつがいた。

いつの間にか授業は終わっていたらしい。

「どうしたよ、そんな怖い顔して。」

冗談半分で俺の首に抱き着き、俺の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でる。


「離せっ、気色わりぃ。別に何でもねぇよ。」


無理矢理引きはがそうと足掻いていると、あいつの髪からシトラスの香りがした。


落ち着く香り、俺の居場所。


思わず心臓が跳ねて、俺はむせた。

「だっ、大丈夫かよ。」


「うるせぇ、お前が暴れるからだ。」


ようやく離れたあいつの顔を、俺はありったけの憎しみをこめて睨んだ。


お前のせいで悩んでんだよ。


そう口走ったら、お前はどんな顔をするんだろう。


それが知りたくて、


それでいて知りたくない。


「パン、買ってくるわ。」

それだけ言って、席を立った。


耳が熱い。


馬鹿みてぇに。


さっきの香りを思い出して、思い出すとまた心臓が跳ねた。


胸が痛い。


そう思いながら、俺は食堂へと駆けていった。
 

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