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檻の中に射した光
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自由になりたかった。囲まれた檻の中から逃げ出したかった。



【天皇家】その言葉を聞いただけで人はみな私たちを崇め、讃える。まるで神様を見ているかのように私たちを見る。


本当は神様でもなんでもないのに。


私はそういう風に見られるのが嫌だった。同じ人間なのに、どうして違う扱いをされるのか。そして、その扱いをうけ、自分は神なのだと思っている兄のことも嫌いだった。



元々腹違いの兄妹である私たちは会うことも少なく、話したのも数える位しかなかった。ただ、第一印象は「恐そうな人」だった。だから父上が亡くなって兄が天皇になったとき、あまり良い印象は持てなかった。



でも、兄の実の妹、私の義理の姉である和宮様のことは大好きだった。気高く、優しく、気品溢れていて、実妹ではない私のことを本当の妹のように扱ってくださって、時間があればいつも私と遊んでくださった。


本当に大好きだった。神のように崇められ、外に思いを馳せながら囲まれた檻の中で過ごしていた毎日でも、和宮様といられるならば苦ではなかった。



でも、ある日突然和宮様に縁談の話がやってきた。


幕府の将軍との縁談。


断るすべもなく和宮様は嫁ぐことになった。


また一人になる。また不自由な日々と向き合わなければならなくなる。そんなことは堪えられなかった。だから私は兄上に無理を言って和宮様についていくことにした。元々私のことなど眼中になかった兄上は、特に反対もせず「和宮がいるなら安心だろう」と承諾した。



まだ和宮様と一緒にいられる。そして将軍家の城に住むのならばここよりは自由になれる。そう思った。
だが、将軍家の扱いは天皇家にいたころよりも私を苦しめるものだった。


将軍家にとっても天皇は絶対的な存在。怪我をしてはいけないと遊ばせてもらえなかったり、曲者が現れたら大変だと常に護衛がついていたり、品が下がっては困ると常に高い着物を着せられたりした。着物は毎日違うもので、一回着ては捨ててしまう。そして自分では着物を選ぶこともできない。そして安全のためにと部屋の外に出ることもままならない。



前より私は不自由だった。


そんな中での私の唯一の救いは和宮様とその夫、当時将軍になられたばかりだった徳川茂茂様だった。将軍様は無理を言ってついてきた私にもとても優しくしてくれた。そして和宮様と将軍様、私の三人で遊ぶことも少なくはなかった。将軍様の第一印象は「優しそうな人」兄上とは正反対だった。私がそんな将軍様を慕うのに時間はかからなかった。



だけど、日が経つにつれて将軍様と和宮様は忙しくなっていった。


そうなると当然会える機会も減っていき、その回数は一年に一回会えるか会えないかになっていった。私にとって会話が出来る人は将軍家では和宮様と将軍様だけだったため、お二人に会えない私の毎日は静かそのものだった。



誰とも会わない。誰とも話さない。窓から外を見るだけの毎日。



次第に私は感情というものを忘れていった。人と接しないから悲しいことも、楽しいことも、苦しくも恐ろしくも頭にくることもなかった。喜怒哀楽、あらゆる感情全てを忘れた。笑い方すらも、全て。



そんな私の様子を聞いた兄は、民衆に知れたら問題になると思ったのか、私の側近である藤緒さんに対処を命じた。命じられた藤緒さんは【友達】という名の人間を雇った。



名を、沖田総悟というらしい。



年は私と一緒。武装警察真選組の一番隊隊長だと聞かされた。正直、そんな雇われた人間なんかに興味はなかった。どうせその人も友達とは名ばかりで、よそよそしく接したり、必要以上に関わろうとはしないのだろう、と思っていた。だけど、彼は私の予想以上に私に関わろうとしてきた。



好きな食べ物はなんだ、嫌いな食べ物はなんだ、趣味は、夢は、と。



自分の夢は自由になること、それしか思いつかなかったから私は反対に彼の夢を聞いてみた。すると、彼は迷わず言った。


副長になりたい、と。



大切な人の側で、大切な人の役に立ちたいんだと。



不覚にも私はそう言って愛しそうに笑った彼の笑顔に惹かれてしまった。



彼は色々な表情をもっていた。局長さんのことを話す時は嬉しそうな顔。副長さんのことを話す時は楽しそうな顔だったり、気に入らないというような顔だったり、時々悲しそうだったり。


なんて表情豊かな人…



そんな彼と話しているうちに自然と自分も笑顔になっていることに気がついた。彼はその爽やかな顔をくしゃっと崩して笑い、私を楽しませてくれた。


否、彼自身が楽しんでいたのを、私も楽しいと思ったのだろう。



やがて、彼が帰る時間が来てしまった。最初はあんなにどうでもよかった彼に、側にいてほしいと思っている自分がいた。



『また来てくれるんですよね?』


そう問えば、


「もちろんでィ。友達なんですからねィ」



と答えてくれた。


最後にそう言って見せた彼の笑顔を見て、ああ、別れたくない、ずっと側にいてほしい、もうきっと私は……抜け出せない。そう感じた。













かく恋ひむものとは我も思ひにき、心の占ぞまさしかりける。


(このように激しく恋することになろうものとは私もあの時たしかに思ったわ。やっぱりあの時の予感は正しかったことですよ)










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