短編
□嗚呼、愛してる
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黒くも、白くもないの。灰色の想いだから。
※神威くん登場
仕事が終わって土方さんの部屋に行った。
いつもと同じく土方さんの後ろから抱きついて、いつもと同じく土方さんは相手をしてくれなくて、豪雨だったから旦那に迷惑をかけたあの日を思い出して、虚しくなって自分の部屋に戻って布団の上で横になっていたら、いつの間にか眠っちゃって、夢さえ見なかった。
…目が覚めてしまった。
真っ暗な部屋で布団に仰向けで寝ていると、無性に怖い。
…今何時なんだろう?まだ雨の音も匂いもする。
…ああ、少し雨が弱まった?
今日みたいな豪雨の日のことを思い出していた。
旦那に薬を飲ませてもらったらしい日のこと。
またおいでって言ってくれて、あれから何度か土方さんの話を旦那に聞いてもらっている。
……寝られない。
目が覚めちゃった。
…土方さんまだ起きているのかな?
…会いに行こうかな。
ああああああああ!
またすぐに土方さんのことを考える!
想わないって決めたんだろうが!
ちょっと外に出て頭を冷やそう!
そう思って布団から出る。
障子戸を開け、庭が見えた。
ぬかるんでいて水溜まりも沢山。
小雨だけどまだ雨は降っている。
…隊服が濡れちまう。
暫くボーッと外を見ていた。
雨の音と匂いにも慣れてきた。
風邪ひいちまうかも。
ああでも、風邪ひいて土方さんに心配されたい…。
風邪ひけぇぇぇ…!
「そこのお嬢さん」
誰からか話しかけられた。
反射的に声が聞こえた方を見たけれど、知らない奴だ。
「まだ雨降ってるネ」
「…まあ、」
誰だコイツ。
こんな奴居たっけ?
「お嬢さんここの人?」
「そうだけど…」
なんなんだ?こいつは。
「じゃあ、沖田って人…今居る?」
居るもなにも…沖田は私だ。
「居たら呼んできてほしいんだけど」
なんで?
どうして玄関から入ってこないの?
普通に入って取り次いでもらえば良いのに…。
「居る?」
「…何の用?」
こいつは傘を持ってる。
けど何でびしょ濡れなんだ?
「んー、いろいろ」
「用事を言わなきゃ取り次がない」
「…ふうん」
本当はそんなこと無いんだけど、怪しい奴を中に入れるわけにはいかない。
…もう入っているけど。
「で、今沖田は居るの?」
「……………居ない」
ということにしておこう。
「なんだ、居ないんだ。…じゃあいいや」
そう言ってすぐ帰っていった。
…なんだ?あいつ。
*
次の日の朝。
どうしよう…!
今日土方さんと二人で!見廻りだ!
どうしよう!どうしよう!どうしよう!
「総羅」
「…はい」
どうしよう。
名前を呼ばれただけで心臓がドクドクする。
「パトカー出して来い」
「へぃ」
車の鍵を持って車庫に行く。
屯所前まで持って来てふと思う。
本当に二人きりじゃん…!
どうしよう、緊張してきた。
パトカーで見廻りするときに運転するのは土方さん。
だから助手席に座る私は、土方さんの横顔をずっと見ていられる。
運転するときの横顔とか腕とか本当に大好き。
あっ…来た!
土方さんが煙草を吸いながら歩いてくる。
かっこいい…。
「待たせたな」
「全然…」
運転席に座ってシートベルトを締める土方さん。
それだけでも滅茶苦茶かっこいい。
土方さんは煙を一度吐くと、車を発進させる。
「おい、」
「…へぃ」
発進して約五分。
「俺のこと見てないで周り見ろ、周り」
注意された。
「…へぃ」
ちっ。
もう少し見ていたかった。
「総羅、ちょっと頼まれて欲しいことがある」
そう言いながら煙草を灰皿に押し付けた。
「何ですかィ」
頼まれて欲しいって言っているけど、絶対私に拒否権無い。断言する。
「接待してこい」
ほら、最初から他人に何か頼む姿勢じゃなかったからね。もう命令してるからね。
「誰の?何のためにですかィ」
何で私なの?
「幕府要人の天人。吉原運営のための会談。護衛も兼ねる」
*20120903